特定調停と個人再生の違い徹底比較!

監修者

元弁護士ライター 福谷 陽子

特定調停と個人再生は、どちらも裁判所に申し立てを行ない、借金の返済額を少なくしてもらう手続きです。

ただし、特定調停では債務者本人が簡易裁判所に申し立てをして、調停委員の仲介のもとで債権者と交渉するのに対し、個人再生では弁護士に依頼して地方裁判所に申し立てをし、裁判所から再生計画の認可を受ける、という点で大きく異なっています。

ほかにも、カットされる金額や、手続きにかかる費用、財産の取り扱い、信用情報に事故情報が残る年数などにも違いがありますので、両者を徹底比較してみましょう。

特定調停と個人再生の違い

特定調停と個人再生の違いは、以下のようになります。

  特定調停 個人再生
対象となる人 特定債務者 債務が5,000万円以下の人
申立先 簡易裁判所 地方裁判所
弁護士 依頼しなくてもできる 依頼しないと難しい場合が多い
減額効果 少ない 大きい
整理先の選択 できる できない
費用 実費のみ(数千円程度) 30万円以上
督促の停止 申し立てから数日後 弁護士に依頼したらすぐ
過払い金の返還請求 別途手続きが必要 同時にできる
財産の制限 原則なし 一部あり
ブラックリスト入り
する期間
5年 5年または10年
官報への掲載 なし あり

それぞれの項目について、詳しく解説していきます。

対象となる人

特定調停は、特定債務者のための手続きです。

特定債務者とは、「金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人」と定義されていますが、単純に「今のままでは借金の返済が難しい人」であれば誰でも行なうことが可能です。

一方、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つがあり、それぞれ対象となる人が異なります。

どちらにも共通している条件は、「継続的に安定した収入を得られること」と、「住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円以下であること」です。

参考:「小規模個人再生」「給与所得者等再生」の違い

申立先

特定調停の申立先は、債権者の所在地を管轄する簡易裁判所です。自分の居住地ではない点に注意してください。

一方、個人再生の申立先は債務者の居住地を管轄する地方裁判所です。ただし、自営業者で営業所のある場合は、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所になります。

弁護士

特定調停は、債務者が自分でできる唯一の債務整理方法です。書類をそろえたり、何度か裁判所に足を運んだりする手間はかかりますが、調停では調停委員が間に入ってくれるため、法律の知識がない人でも債権者と交渉することができます。

それに対し、個人再生は高度な法律の知識が必要な手続きですので、基本的には弁護士への依頼が必須です。弁護士に依頼すれば、申立書や再生計画案の作成から、裁判所への申し立て、出廷などをすべて代行してもらえます。

借金の減額効果

特定調停の減額効果は、任意整理とほぼ同じです。利息や遅延損害金をカットしてもらい、元金だけを分割で返済していきます。

ただし、債権者によっては利息のカットに応じてくれない場合もあるため、必ずしも希望通りの条件で解決できるとは限りません。

一方、個人再生では債務の額に応じて以下のように最低弁済額が決まっています。

借金総額 最低弁済額
100万円~500万円未満 100万円
500万円~1,500万円未満 借金総額の20%
1,500万円~3,000万円未満 300万円
3,000万円~5,000万円 借金総額の10%

このように、債務の額によっては80~90%もカットしてもらえますので、個人再生は、任意整理や特定調停では解決できないほど借金の多い人に向いています。

整理先の選択

複数の借入先がある場合、特定調停ではその中から整理したい借金を選ぶことができます。

たとえば住宅ローンや自動車ローンを組んでいる場合、それらを整理の対象から外して引き続きローンを支払っていけば、家や自動車を手放す必要はありません。また保証人のいる借金がある場合も、整理先から外すことで保証人に迷惑をかけずに済みます。

一方、個人再生には「債権者平等の原則」があるため、整理先を選ぶことは基本的にできません。つまり、すべての借金やローンが強制的に個人再生の対象となります。

ただし、家に関しては「住宅ローン特則」という救済措置がありますので、利用条件を満たしていれば、住宅ローンを個人再生の対象から外すことが可能です。その場合、家を守りながら、他の借金のみを減額することができます。

手続きにかかる費用

弁護士を立てずに自分でできる特定調停は、経済的な負担がもっとも少なく、1件の申し立てにつき数千円程度の実費で収まることが一般的です。

それに対し、個人再生では「実費+弁護士費用」がかかります。実費の中でも高額なのが、裁判所に納める予納金で、特に「個人再生委員」が裁判所から選任されると、その人への報酬が15万~25万円ほどかかります(個人再生委員が選任されないケースもあります)。

さらに、個人再生は手続きが複雑なだけに弁護士費用も高く、30万~50万円が相場です。特に住宅ローン特則付きの個人再生は、そうでない場合に比べて費用が高くなります。

費用の捻出が難しい場合は、分割払いに対応している法律事務所を選ぶか、法テラスの弁護士費用立て替え制度(民事法律扶助)の利用を検討してみましょう。

督促の停止

簡易裁判所に特定調停を申し立てると、数日中に申し立てがあったことを知らせる通知が裁判所から各債権者へと送られ、この通知を受け取った時点で債権者は債務者に対して直接の取り立てができなくなります。

一方、個人再生では弁護士に依頼したその日のうち(時間帯によっては翌日)に督促がストップします。

過払い金の返還請求

特定調停は新たな返済計画を立てるための手続きですので、過払い金が発生していても返還請求の手続きは別途行なう必要があります。

これに対し、個人再生では弁護士が過払い金請求を同時にしてくれます。

財産の制限

特定調停では、基本的に財産の所有に関して制限がありません。

また「整理先の選択」でご説明した通り、交渉したい債権者を自由に選べるため、ローンの残っている車や住宅も引き続き所有することが可能です。

一方、個人再生では財産の取り扱いが少し厳しくなります。個人再生には「清算価値保障の原則」といって、所有する財産以上の金額を返済しなければいけないルールがありますので、財産を多く残せば残すほど返済の負担が大きくなるのです。

さらに「債権者平等の原則」もあるため、車のローンを組んでいる場合はそれも個人再生の対象となり、債権者によって車を引き揚げられてしまいます。

ただし、持ち家に関しては「住宅ローン特則」の利用で引き続き所有することが可能です。

ブラックリスト入りする期間

どのような債務整理を行なっても、信用情報機関に事故情報が登録されるため、いわゆる「ブラックリスト入り」することになります。

国内の信用情報機関には、「CIC」「JICC」「全国銀行個人信用情報センター」の3つがありますが、特定調停の場合、どの機関であってもブラック情報の登録機関は5年間です。

一方、個人再生はCICとJICCでは5年間ですが、全国銀行個人信用情報センターには10年間登録されるため、銀行系のローンを整理する場合はブラック期間が長引くことになります。

官報への掲載

債務整理の中でも、個人再生と自己破産をした場合は、国が発行する「官報」という機関誌に氏名や住所が掲載されます。

官報を毎日チェックする人はほとんどいないといっても過言ではありませんが、知人が絶対に目にしないという保証はありませんので、その点はややネックです。

一方、特定調停を行なっても官報に情報が掲載されることはありません。

まとめ

以上、特定調停と個人再生の違いについてご紹介しました。

債務者が自分でできる特定調停は、手間と労力がかかりますが、その分費用は安く済みます。また財産の制限も基本的にありませんし、整理したい借金を自由に選ぶことも可能です。

一方、個人再生は高額な費用がかかりますが、債務を大きく圧縮できる点が最大のメリットですので、借金の額が多い場合に向いています。

どの債務整理が自分にとってベストなのかがわからない場合は、弁護士の無料相談を利用するなどしてアドバイスをもらうようにしましょう。

弁護士の無料相談を最大限活用する3つの準備

監修者

元弁護士ライター 福谷 陽子

弁護士に相談する際は、一般的に「30分5,000円(+税)」の法律相談料がかかりますが、最近は無料で相談に応じる法律事務所が増えています。

借金問題を解決するためには、法律のプロである弁護士にアドバイスを求めるのが一番ですから、債務整理を考えている方は無料相談を活用しない手はありません。

ただし、限られた時間内で的確なアドバイスをもらうためには、いくつかの準備が必要です。

ここでは、弁護士の無料相談を最大限活用するための3つの準備についてご紹介していきます。

1.相談先の法律事務所をしっかりリサーチする!

「どうせ無料なのだから、近くの法律事務所を適当に選んで相談してみよう」と思うのは間違いです。

良いアドバイスをもらうためにも、まずは相談に行く法律事務所をインターネットでしっかりリサーチしましょう。

債務整理に強い法律事務所を選ぶ!

一口に弁護士といっても、どの分野を専門に手がけているかは異なります。たとえば離婚問題に強い弁護士もいれば、交通事故の示談交渉が得意な弁護士もいるため、借金の相談をするなら債務整理に強い弁護士を選ぶことが大切です。

弁護士の専門分野を知るには、法律事務所が開設しているホームページが役立ちます。法律事務所のホームページでは、専門分野に関連するコンテンツを充実させていることが多いため、債務整理関係の記事が多いところを選んでみてください。

また、ホームページ上で実績を公開している法律事務所ですとなお安心です。なるべくここ数年の債務整理の実績が多い弁護士を選ぶようにしましょう。

無料相談の時間や回数を確認する!

無料相談といっても、何分まで無料なのか、また初回のみ無料なのか、何度でも無料なのかは法律事務所によってさまざまです。あとから追加の料金がかからないよう、事前にしっかり確認しておきましょう。

また、法律事務所によっては面談のほか、電話での無料相談に応じるところもあります。面談のほうが必要書類を見せながら相談できますし、弁護士の人柄もわかりやすいのでおすすめですが、多忙でなかなか時間がとれないような方は電話相談を利用するのも一つの方法です。

実際の手続きにかかる費用も調べておく

相談の結果によっては、そのまま債務整理を依頼することになる可能性もあるため、できれば実際の手続きにかかる弁護士費用についても調べておくと安心です。

最近はホームページに料金を載せている法律事務所が多いので、ぜひチェックしてみてください。詳細がわからない場合は、無料相談の際に問い合わせてみましょう。

2.借金の状況がわかるものを持っていく!

借金問題に関して的確なアドバイスをもらうためには、自分の借金の状況がわかる書類を持っていくことも大切です。

あらかじめ持参するものを教えてもらえる場合もありますが、一般的には以下のような書類があると相談がスムーズに進みます。

債権者がわかるもの
  • 借入先の一覧表
  • 契約書や借用書
  • クレジットカード・ローンカード など
借入の状況がわかるもの
  • 利用残高のわかる領収書や請求書 
  • 債権者から届いた督促状 など
収入や財産がわかるもの
  • 直近数ヶ月分の給与明細もしくは前年度の確定申告書
  • 預貯金や生命保険、自動車などの財産の一覧表
  • 住宅ローンの契約書 など
身分を証明できるもの
  • 運転免許証
  • パスポート など

初回の相談では、上記のようなものを持参すれば十分なアドバイスを受けられます。ほかに必要書類がある場合は、法律事務所の指示にしたがって持っていくようにしましょう。

特に古くからの借り入れがある場合は、過払い金が発生している可能性がありますので、それぞれの借金がいつからあるのかがわかる書類(契約書や最初の借入時の明細など)があれば持参したほうが良いです。ない場合は、借入先の情報(名称や連絡先)をできるだけ正確に思い出しておきましょう。

また債務整理を急いでいて、無料相談の結果によってはその場で契約まで済ませてしまいたいと考えている方は、印鑑も必要になります。

3.聞きたいことや自分の希望などをできる範囲でまとめておく!

法律事務所の無料相談は、初回30分など時間が限られていることが多いため、時間内で必要なアドバイスをもらえるよう、質問の要点や自分の希望などをできるだけ整理しておくようにしたいものです。

たとえば、以下のようなポイントを考えておくようにしましょう。

  • 現在一番困っていること
  • 検討している債務整理の種類
  • 債務整理をしたら月々いくらぐらいの返済が可能か?
  • 債務整理をしたい借金はどれか?
  • 自分の所有する財産について
  • 家計の状況について

上記のような質問があった場合にすぐに回答できれば、相談もスムーズに進みます。また、相談の際は弁護士のアドバイスをメモにとるなどして、あとからしっかり検討できるようにしましょう。

まとめ

弁護士の無料相談を最大限に活用するためにしておきたい、3つの準備についてご紹介しました。

限られた時間内で的確なアドバイスをもらえるよう、ある程度の準備をしてから相談に行くようにしたいものです。

ちなみに、無料相談では自分の状況を正直に伝えることも大切です。

たとえば借金をした理由について問われた時、「浪費やギャンブルで…」と答えるのは後ろめたい気がするかもしれませんが、正確なアドバイスをもらうためには正確な情報を提供する必要があります。

もちろん闇金融から借り入れしている場合も、その事実をしっかり伝えなくてはいけません。

また、無料で相談に乗ってもらったからといって、必ずその弁護士に債務整理を依頼しなければいけないわけではありません。手続きにかかる費用などを聞いた上で、いったん持ち帰ってじっくり考えてもいいですし、ほかの法律事務所の無料相談も利用した上で比較検討するのもOKです。

本当に信頼して債務整理を依頼できそうかどうか、相談の際は弁護士の人柄も合わせてチェックすることをおすすめします。

特定調停での「17条決定」とは

監修者

元弁護士ライター 福谷 陽子

特定調停は、債務者が弁護士を立てずに自分で行なえる債務整理です。弁護士費用がかからないため、コストをかけずに借金を整理したい人に向いています。

ただし、特定調停を申し立てても交渉がうまくいかないケースもあります。そのような時に裁判所から出されることがあるのが、「17条決定」です。

本来、調停は双方の合意によって解決するものですが、それが難しい場合、民事調停法の17条にもとづいて、裁判所が事件解決のための必要な決定をすることが認められています。

特定調停における17条決定について、詳しく解説していきます。

特定調停における「17条決定」とは?

特定調停は、債務者が簡易裁判所に申し立てを行ない、借金の額や返済方法について債権者と交渉するための手続きです。

カットしてもらえる金額は任意整理とほぼ同じで、利息や遅延損害金が主ですが、簡易裁判所の調停委員を通して債権者と交渉すること、そのため弁護士を立てなくても債権者自身で手続きできること、などが特定調停の特徴となっています。

ただし、特定調停を申し立てても必ずうまくいくとは限りません。中には強硬な姿勢をくずさない債権者もいますし、新たな返済計画についてなかなか合意に至らないこともあります。

そのような時、迅速に事件を解決するために、裁判所の権限で解決内容を決定することが認められています。

この権限は「民事調停法」の第17条に規定されていることから、通称「17条決定(調停に代わる決定)」と呼ばれます。

民事調停法第17条

第十七条  裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。

※e-Gov「民事調停法」より抜粋

このように民事調停法では、裁判所が調停委員の意見を聞きながら、債務者と債権者のどちらに対しても公正な内容で和解条項を決定することが認められています。

本来、特定調停では双方が話し合いを重ね、「借金の額をこれぐらいに減らして、今後は月々○万円ずつ返済するようにしましょう」という和解内容を決めるのですが、それがうまくいかなかった場合、裁判所が代わりに決定する権利があるということです。

17条決定が出されるケース

特定調停で17条決定が出されるのは、おもに以下のようなケースです。

  • 債務者もしくは債権者が、裁判所に解決案の提示を求めた場合
  • 交渉が進んでいるが、あと一歩が決まらない場合
  • お互いにこれ以上譲歩できない状態で、中立的な見解が必要と思われる場合
  • 債権者が、最初から17条決定を求める上申書を裁判所に提出している場合

17条決定は、裁判所が「こういう内容で和解しなさい」と決めるものですから、双方に和解の意思が多少なりともあることが前提となります。

一般的には、「大体の内容は決まったけれど、これ以上話し合いで決めるのは難しい」というような場合に、債務者もしくは債権者が裁判所に17条決定を求めるケースが多くみられます。

また、債権者が最初から17条決定を求める旨の上申書を裁判所に提出するケースも増えています。

特定調停では、債権者も調停の期日に出廷しなければいけないのですが、その手間を省くために「まずは裁判所で和解内容を決定してください」とお願いすることもあるのです。

この場合、債権者は調停に出席しない代わりに電話で調停委員に主張を伝え、調停委員はその内容を申立人(債務者)と確認した上で、裁判所が17条決定を出すことになります。

17条決定の効力

17条決定は、調停での和解と同じ効力を持ちます。

双方の話し合いで和解できた場合、「調停調書」が作成され、債務者はその内容にしたがって返済していくことになります。

調停調書には、裁判での判決と同じ効力(強制執行力)があるため、万が一約束通りの返済ができなかった場合は、給与や財産を差し押さえられてしまう可能性があります。

17条決定も調停調書と同じ効力を持ちますので、その内容に従わなければ強制執行を受けるおそれがあります。ただし、次で説明する「異議申し立て」をした場合はその限りではありません。

17条決定には「異議申し立て」ができる

裁判所の出した17条決定は、裁判での判決と違い、異議申し立てを行なうことでその効力を消滅させることができます。

つまり、当事者が「その内容には不服だ!」と思った場合、17条決定にNOを言うことができるのです。

17条決定への異議申し立てについては、次の18条に規定があります。

民事調停法第18条

(異議の申立て)

第十八条  前条の決定に対しては、当事者又は利害関係人は、異議の申立てをすることができる。その期間は、当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。

2  裁判所は、前項の規定による異議の申立てが不適法であると認めるときは、これを却下しなければならない。

3  前項の規定により異議の申立てを却下する裁判に対する即時抗告は、執行停止の効力を有する。

4  適法な異議の申立てがあったときは、前条の決定は、その効力を失う。

5  第一項の期間内に異議の申立てがないときは、前条の決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

※e-Gov「民事調停法」より抜粋

17条決定に不服があった場合は、2週間以内に異議申し立てをしなければいけないことになっています。異議申し立てはおもに書面で行なわれ、不服の理由は特に必要とされません。

何もしないまま期間が経過すると、17条決定は調停調書と同じ効力を持ち、強制執行可能な状態になります。

このように、17条決定には異議申し立てが行なわれる可能性がありますので、初めから和解に応じる意思のまったくない債権者が相手の場合、あえて17条決定を出さずに調停不成立で終わることが多いです。

また、あらかじめ裁判所に17条決定をお願いする上申書を提出していた債権者であっても、実際に出された内容を見て異議申し立てを行なう可能性はあります。

出廷の手間を省くために、まずは裁判所の17条決定を見てから同意するかどうかを決める、という債権者もいるわけです。

このように異議が出された17条決定はすべての効力を失い、その時点で特定調停は不成立に終わることになります。今後その債権者に対しては、任意整理や個人再生などの別の債務整理を検討するしかありません。

まとめ

特定調停における17条決定についてご紹介しました。

特定調停は近年、申立件数自体が減少しており、ピーク時(2003年)には54万件を超えていたのが、2014年にはわずか3,358件にまで減少しています。

さらに和解が成立する割合も低く、ここ数年は申立件数の5~6%前後で推移しています。

もっとも、最近は申立件数の半数以上で17条決定が出されているため、調停で和解できなくても、17条決定によって解決をはかれるケースが増えているようです。

出された決定に双方が異議を出さなければ、その決定は調停での和解と同じ効力を持ちますので、あとは決定内容にしたがって債務者は返済していくことになります。

ただし、特定調停は費用の安さが最大のメリットである一方で、書類作成や出廷の手間がかかることや、過払い金請求は別途行なう必要があるなどのデメリットもあります。

個々のケースによっては、特定調停は必ずしも使い勝手がいい方法とはいえないため、弁護士の無料相談を利用するなどして慎重に検討しましょう。

債務整理をすると車や家は没収?残す方法は?

監修者

元弁護士ライター 福谷 陽子

債務整理をするにあたって、「家や車などの財産を残せるかどうか?」が気になる方は多いと思います。

結論からいいますと、任意整理特定調停では基本的に財産を処分されることはありませんし、ローンの残っている住宅や車も残すことが可能です。

一方、個人再生自己破産では財産の取り扱いがやや厳しくなります。特に自己破産では、生活に必要な最低限の財産しか残すことができません。

それぞれの債務整理における財産の取り扱いや、車・住宅を残すための方法などについて解説していきます。

任意整理と特定調停の場合

任意整理および特定調停は、債権者と交渉して利息や遅延損害金をカットしてもらい、元金だけを3~5年の分割払いで支払っていく方法です。

債務整理の中ではもっともデメリットが少なく、財産を強制的に処分されることもありません。

また、任意整理と特定調停では交渉相手を自由に選べますので、手元に残しておきたい財産がある場合は、そのローンを手続きの対象から外せばいいということになります。

現金や物品など

問題なく手元に残すことができます。ただしローンやクレジットカードで支払い中の商品があり、それを任意整理や特定調停の対象に含める場合は、商品を没収される可能性があります。

自動車

ローンのない車はそのまま所有できますが、「所有権留保付き」のローンが残っている場合、任意整理や特定調停の対象にしてしまうと債権者に車を引き揚げられてしまいます。

ですから、所有権留保付きの車を残したい場合は自動車ローンを任意整理の対象にせず、そのまま支払い続ける必要があります。

住宅

住宅ローンも、任意整理や特定調停の対象にすると債権者によって抵当権が実行され、競売にかけられる可能性が高いです。

家を手放したくない場合は、住宅ローンを任意整理せず、そのまま支払い続けるようにしましょう。

個人再生の場合

個人再生は、大幅に圧縮してもらった債務を3~5年で支払っていく方法です。

債務の一部は返済するため、すべての債務が免除される自己破産よりは多くの財産を残せますが、任意整理や特定調停に比べるとやや制限があります。

現金や物品など

個人再生には、「清算価値保証の原則」というものが適用されます。これは、「手元に残す財産の総額以上の金額を返済しなければならない」というルールです。

たとえば債務が300万円ある人の場合、本来であれば最低弁済額は100万円となるのですが、もし300万円分の価値がある財産を手元に残す場合は、最低弁済額も300万円になります。

つまり、財産の額が多ければ多いほど返済額も増えることになりますので、場合によっては財産を処分し、その分を返済にあてるという方法がとられることもあります。

自動車

個人再生には「債権者平等の原則」というルールもあるため、任意整理や特定調停のように整理先を自由に選ぶことができません。

つまりローンの残っている車がある場合、強制的に個人再生の対象となり、債権者によって車は引き揚げられてしまいます。

個人再生でローンの残っている車を手元に残したい場合は、以下のような方法があります。

  1. ローンの残債を一括返済する
  2. 車の名義を知人や親族に変更する
  3. 債権者と「別除権協定」を結ぶ
  4. 「担保権消滅許可」を申し立てる

特に、仕事や生活環境などで車が必要不可欠な場合、特別に車のローンを個人再生の対象から外してもらう③の方法を選択できる可能性があります。

債務整理に強い弁護士に相談し、アドバイスをもらうようにしましょう。

住宅

個人再生の大きなメリットの一つが、「住宅ローンの残っている家も残せる可能性がある」ということです。

本来、個人再生はすべての借金が対象となりますが、家に関しては救済措置として「住宅ローン特則」(住宅資金貸付債権に関する特則)が用意されています。

住宅ローン特則を定めた再生計画が裁判所に認可されると、住宅ローンはこれまで通り支払うことで、家を引き続き所有することが可能です。

また、住宅ローンの支払いが苦しい場合は返済期間を延ばしてもらったり、個人再生の弁済期間中はローンの返済額を減らしてもらったりできる可能性もあります。

住宅ローン特則を利用するためには、「債務者本人が住んでいること」「債権者や保証会社の抵当権だけが設定されていること」などのいくつかの条件を満たさなくてはいけません。

自己破産の場合

自己破産は、税金や健康保険料を除くすべての借金の返済を免除してもらう手続きです。債務整理の中でも究極の方法になりますので、財産の所有については厳しく制限されます。

残せる財産

自己破産をする場合、手元に残せる財産は「1種類あたり20万円以内」のものに限られます。また、99万円までの現金と、衣服・寝具・仕事に必要な道具などの必需品も所持が認められています。

評価額が20万円を超える車や、解約金が20万円を超える生命保険などはすべて処分しなくてはいけません。

自動車

ローンが残っている車で「所有権留保」が付いている場合は、価値にかかわらず債権者によって引き揚げられます。

それ以外の車は財産となりますので、時価額が20万円を超える場合は処分の対象となります。

つまり、自己破産で手元に残せる車は「ローンが残っておらず、売却しても20万円以下の値打ちしかない車」です。

住宅

住宅ローンが残っている状態で自己破産をする場合、家は競売もしくは任意売却で処分されます。

一方、ローンの残っていない住宅は財産として扱われ、破産管財人によって売却されます。普通に考えて20万円以下の価値の家はありませんので、ローンが残っていようといまいと、自己破産をする場合は持ち家を手放すことになります。

自己破産をしても家に住み続ける方法としては、家を誰かに買い取ってもらい、今後はその人に家賃を納めるという方法があります(セール&リースバック)。この場合、親族や知人に買い取ってもらうか、専門の不動産業者に依頼することが一般的です。

その際に「買い戻し特約」をつければ、所定の賃料を納めた後で家の所有権を自分にもどすこともできます(セールバック)。

まとめ

債務整理と財産についてまとめてみましょう。

財産 任意整理と特定調停 個人再生 自己破産
現金 制限なし 残せるが、額によっては最低弁済額が増える場合がある 99万円まで
自動車ローンを整理の対象から外せば、引き続き所有できる 所有権留保付きの車は原則没収されるが、生活に必要な場合は別除権協定を結べることもある 価値が20万円を超える車は残すことができない
住宅 住宅ローンを整理の対象から外せば、引き続き所有できる 「住宅ローン特則」を利用できれば、引き続き所有できる 処分しなくてはいけない

このように、財産を残せるかどうかは債務整理の種類によって異なります。特に厳しいのは自己破産で、必要最小限の財産しか残せませんので、住宅や車を残したい場合は個人再生を検討したほうがいいかもしれません。

必要な財産をなるべく手元に残すことができるよう、まずは債務整理に強い弁護士に相談してみてください。

自分でやれば最も安くできる債務整理、特定調停とは

監修者

元弁護士ライター 福谷 陽子

特定調停は、債務整理の中でももっとも費用の負担が少なく済む手続きです。

ほかの方法と異なり、債務者自身が行なうことができますので、弁護士費用をかけずに借金の整理ができます。

一方、書類の用意や裁判所への出廷などの手続きをすべて自分でしなければいけないため、手間や労力がかかる点がデメリットです。

特定調停の流れや、メリット・デメリットなどについてご紹介していきます。

特定調停とは?

特定調停は、簡易裁判所の仲介のもとで債務者と債権者が話し合い、借金の額や返済方法などを見直す手続きのことです。任意整理と同じく、おもに利息や遅延損害金をカットしてもらえるよう交渉します。

特定調停が任意整理と大きく異なるのは、弁護士を立てずに自分で行なえる点です。そのため、任意整理よりも費用負担は少なく済みます。

ちなみに、特定調停も弁護士に依頼することはできますが、そうなると任意整理と変わらない費用がかかりますので、弁護士を立てるなら最初から任意整理を選ぶことが一般的です。

特定調停の流れ

特定調停は、以下のような流れで進められます。

  1. 申し立て
  2. 調査(申立人への事情聴取)
  3. 調停(およそ3~4回)

→ 合意に至れば、調停調書の作成
→ 合意に至らなければ、調停不成立

特定調停は、まず債務者が必要書類をそろえて「特定調停申立書」を作成し、それを債権者の所在地を管轄する簡易裁判所に提出することから始まります。

きちんと書類がそろっていれば、申し立てが受理されたことを示す「事件受付票」がその日のうちに交付されます。

その後、裁判所は通常2~3日中に、各債権者に特定調停が申し立てられたことを知らせる通知を送付します。通知を受け取った時点で、債権者は債務者に対して直接の取り立てを行なうことはできなくなります。

また、申立人には「調査期日」の通知がとどきます。この場合の調査とは、裁判所から選任された調停委員によって、申立書の内容をくわしくヒアリングされることです。

そして調査からおよそ1ヶ月後に、第1回目の調停が行なわれます。債務者と債権者はそれぞれ別室に待機し、順番に呼び出されて調停委員に主張を伝えるため、双方が直接顔を合わせることはありません。

第1回調停は、新しい返済計画を立てるために今後交渉を重ねていくか、それとも調停不成立になるかの大きな分かれ目となりますが、話し合いがうまく進まない場合でも、裁判所の権限で解決のために必要な決定を行なうことができます(通称「17条決定」)。

この決定には調停成立と同じ効力があるため、異議申し立てをしない限り特定調停に同意したものとみなされます。

債権者によっては、最初から17条決定に従う旨の上申書を提出しており、第1回調停には出席しないこともあります。

ただし、債権者から17条決定に対して異議申し立てがあった場合は調停不成立となるため、ほかの債務整理を考えなくてはいけません。

新しい返済計画を立てることで合意した場合は、さらにくわしい内容を決めるために第2回調停へと進みます。特定調停が開かれるのは大体月に1度のペースで、およそ3~4回の調停で最終合意に至ることが一般的です。

返済計画がまとまると調停調書が作成され、債務者はその内容にしたがって返済していくことになります。

特定調停のメリット

特定調停のおもなメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

債権者からの督促や返済がストップする

上述したように、特定調停の申し立てがあったことを知らせる通知を受け取った時点で、債権者は債務者に直接的な取り立て行為を行なうことはできなくなります。

また、特定調停の期間中は一時的に返済の義務がなくなるため、債務者は経済的にも楽になります。

調停委員を通して話し合いができる

債権者と直接交渉する任意整理と異なり、特定調停では調停委員が間に入ってくれるため、弁護士を立てなくてもスムーズに話し合いができます。

費用が安い

特定調停の大きなメリットが、費用の安さです。

任意整理の場合、弁護士費用として債権者一社につき20,000~40,000円がかかりますが、特定調停は自分で手続きできるため、交通費や切手代、印紙代などの実費(数千円程度)で済みます。

交渉したい債権者を選べる

特定調停は任意整理と同じく、一部の債権者だけを選んで行なうことができます。

たとえば車や住宅のローンを組んでいる場合、それらのローンを整理の対象から外すことで、引き続き車や住宅を所有することが可能です。

これに対し、個人再生と自己破産では債権者を選んで整理することはできません。

特定調停のデメリット

一方、特定調停には以下のようなデメリットがあります。

手間と労力がかかる

特定調停を自分で行なう場合、必要書類の準備や申立書の作成、裁判所への出廷などをすべて一人でする必要があるため、弁護士に手続きを代行してもらえるほかの債務整理に比べるとやや面倒です。

最初の申し立てを含めると、少なくとも3~4回は裁判所に足を運ぶ必要がありますし、調停は平日の日中に行なわれますので、人によっては仕事を休まなくてはいけません。

必ずしも希望通りの合意ができるとは限らない

特定調停を申し立てても、債権者によっては交渉がうまくいかないこともあります。

中には利息のカットに応じてくれない債権者もいるため、その場合は返済額があまり変わらない可能性も考えられます。

また、間に入ってくれる調停委員も弁護士のような専門家ではないため、調停能力に個人差がありますし、必ずしも申立人に協力的であるとは限りません。

そもそも、債権者が交渉に応じず調停不成立になる可能性もあります。

過払金の返還請求は別に行なう必要がある

特定調停は、あくまで借金の返済計画を見直すための手続きですので、過払い金が発生している場合は返還請求を別に行なう必要があります。その場合、結局は弁護士に依頼することになるかもしれません。

また、調停調書の中に「一切の債権債務がない」などの文言が盛り込まれていると、過払い金請求ができなくなることもあるため注意が必要です。

督促が止まるまでに日数がかかる

任意整理の場合、弁護士に依頼した時点でほぼその日のうちに督促が止まりますが、特定調停の場合は裁判所から各債権者に通知が届いてから督促がストップします。

特定調停を自分で行なう場合、申立書の作成だけでも時間がかかることが多いため、その間は督促が続くことになる点がデメリットです。

返済が滞ると強制執行されることがある

特定調停の最後には、合意した内容を記した調停調書が作成されますが、この調書は裁判での判決と同じ効力(強制執行力)を持ちます。

そのため、もし決められた返済を滞らせてしまうと、債権者に給与や財産などを差し押さえられてしまうおそれがあります。

まとめ

特定調停は、債権者が自分で行なえる唯一の債務整理です。

弁護士を立てないため、費用をかけずに借金を整理できる点が最大のメリットですが、一方でほかの方法に比べると手間や労力がかかる点がデメリットになります。

特に過払い金が発生している場合は別途手続きが必要になりますので、余計に面倒です。また、債権者が利息をカットしてくれなかったり、そもそも交渉に応じなかったりする可能性もあります。

このように、特定調停は必ずしも使い勝手のいい方法とはいえないため、最近は申立件数が減少しています。

場合によっては、弁護士に任意整理を依頼したほうがいいケースもありますので、まずは法律事務所の無料相談を利用するなどして、どの債務整理がベストなのかアドバイスしてもらうことをおすすめします。

相続財産と借金は相殺される?

執筆者

行政書士Yurako法務事務所

行政書士 森本 由紀

相続するとき、亡くなった人(被相続人)が借金を残していても、相続財産の方が多ければ心配ないと思っている人もいるようです。

しかし、相続の際に、財産と借金が自動的に相殺されるわけではありません。

ここでは、相続で財産と借金の両方を引き継ぐ場合について説明します。

相続発生時には財産や借金はどのような形で承継する?

相続では財産と借金が勝手に相殺されるわけではない

相続が発生すると、被相続人が持っていた財産を、一定範囲の親族(相続人)が承継します。この場合の財産には、プラスの財産とマイナスの財産が含まれます。

プラスの財産とは、不動産、現金、預貯金などのことで、マイナスの財産とは借金などの債務のことです。

相続が発生すると、財産と借金の両方とも承継することになります。しかし、財産と借金が相殺された状態で承継するわけではありません。

財産は財産、借金は借金でそのまま承継することになりますから、借金を引き継いだ相続人が借金を返済する必要があります。

借金は相続人が相続分に応じて承継する

相続人が複数いる場合、被相続人が残した財産は、遺産分割協議により分け方を決めることになります。

しかし、借金については、相続人全員が相続分(民法で定められている相続の割合)に応じて承継することになります。

なお、遺産分割協議を行う際に、借金についても、一部の相続人のみが承継する形の取り決めをすることもできます。

ただし、相続人間での借金の負担の取り決めを債権者に対して主張することはできません。債権者は原則どおり、各相続人に相続分に応じた借金の支払いを請求することができます。

複数の相続人で借金を相続する場合の例

たとえば、被相続人が借金1000万円を残して亡くなった場合、相続人が子2人(A、B)であるとすれば、AもBも債権者に対して500万円の支払い義務を負います。

遺産分割協議で「1000万円の借金はすべてAが負担する」と取り決めした場合でも、Bは債権者から借金の支払いを請求されたら、500万円を債権者に対して支払わなければなりません。

なお、この場合、Bは債権者に支払った500万円について、遺産分割協議で決定した内容にもとづき、Aに請求できることになります。

プラスの財産とマイナスの財産が相殺される限定承認とは?

借金を引き継ぎたくない場合の選択肢

上述のとおり、相続財産の中に借金があれば、相続人が相続分に応じて借金を負担することになってしまいます。

借金を承継しないために、相続放棄をする方法もありますが、相続放棄をすればプラスの財産も承継できなくなってしまいます。

トータルではマイナスでも、プラスの財産の中に、自宅不動産などどうしても承継したいものがある場合もあります。このような場合に、限定承認という方法が用いられることがあります。

限定承認とは

限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継するという相続方法です。

限定承認では、手続きの中で財産と借金の相殺が行われ、もしマイナスになればマイナス分を引き継ぐ必要はなく、プラスが出ればプラスの分だけを相続人で分けることが可能になります。

相続時には、原則的な相続方法である単純承認以外に、相続放棄または限定承認も選べます。

なお、相続放棄または限定承認を行う場合には、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所で手続きする必要があり、その期間を経過してしまうと自動的に単純承認したことになってしまいます。

限定承認の手続きの流れ

限定承認は、相続人全員で共同して家庭裁判所に限定承認申述書を提出して行います。限定承認では、申述が受理されると、相続財産の清算手続きを行うことになります。

限定承認者が1人の場合にはその人が、共同相続人がいるときにはその中から選任された相続財産管理人が手続きを進行します。

清算手続きでは、相続財産を現金化して相続債権者に返済しますが、相続財産で全額払いきれない場合には、それぞれの債権者の債権額に応じた割合で返済します。

もし清算してもなおプラスの財産がある場合には、遺産分割を行うことになります。

限定承認にはデメリットもある

限定承認というのは、プラスの財産とマイナスの財産の相殺が行われ、プラスが出たときだけ財産を承継できますから、一見便利な方法です。しかし、限定承認には次のようなデメリットがあります。

まず、限定承認は、相続人全員が共同して行う必要があります。相続人同士が疎遠だったり、意見が合わなかったりすれば、手続きが困難です。

また、限定承認をすれば、上述のとおり、法律に則った清算手続きを行わなければなりません。こうした手続きは複雑で手間がかかりますから、できれば避けたいと思う人が多いはずです。

さらに、限定承認した場合、税法上、被相続人が財産を時価で相続人に譲渡したものとみなされ、譲渡所得税の課税対象になってしまいます。

譲渡所得税は譲渡益に対して課税されるものですから、相続財産の中に不動産や株券など含み益のあるものがあれば、被相続人に対して譲渡所得税がかかってしまう可能性があります。

このようなデメリットがあるため、限定承認というのはあまり利用されていないのが実情です。

相続税の計算はどうなる?

相続には基礎控除額がある

相続の際、相続財産の額によっては、相続税が課税されることがあります。相続税は相続財産のすべてに課税されるのではなく、基礎控除額と呼ばれる一定額までは相続税がかかりません。

基礎控除額は、次のような計算式で計算します。

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

債務控除により相殺ができる

財産と借金の両方を相続した場合には、相続税の計算がどうなるのかが気になると思います。相続税の計算の過程においては、債務控除と言って、プラスの財産からマイナスの財産を差し引くことができます。

債務控除の対象となる債務には、被相続人が亡くなった時点で負担していた債務のほか、葬式費用も含まれます。

相続財産からこれらの債務を差し引いた額が、基礎控除額を超えていれば、相続税がかかることになります。

まとめ

財産と借金の両方を相続することになった場合、借金については相続人が相続分に応じて負担するのが原則です。

なお、相続財産と借金とを相殺し、プラスの部分だけ引き継ぎたい場合には、限定承認という方法もあります。

相続放棄や限定承認は、相続開始を知ったときから3か月以内に手続きする必要があります。借金を相続することになった場合には、速やかに専門家に相談し、対処法を考えましょう。

相続人全員が相続放棄した場合借金はどうなる?

執筆者

行政書士Yurako法務事務所

行政書士 森本 由紀

相続が起こったら、財産だけでなく、借金も承継することになります。借金を残して亡くなった家族や親戚の相続人になってしまった場合、相続放棄をすれば借金を承継せずにすみます。

ところで、相続人全員が相続放棄をした場合には、相続する人がいなくなってしまうことが考えられます。ここでは、相続人全員が相続放棄した場合の借金の行方について説明します。

相続人は相続放棄ができる

相続人とは

相続人とは、亡くなった人(被相続人)の財産を引き継ぐ資格のある人のことで、民法にその範囲が定められていることから法定相続人とも呼ばれます。

法定相続人は、配偶者相続人(配偶者)と血族相続人(被相続人と血のつながりのある人)の大きく2つに分かれます。

配偶者は相続財産の形成に貢献していることから必ず相続人となります。一方、血族相続人については、次のような優先順位が定められています。

  1. 第1順位:子や孫など(直系卑属)
  2. 第2順位:親や祖父母など(直系尊属)
  3. 第3順位:兄弟姉妹や甥・姪

第2順位の人は、第1順位の人がいない場合にはじめて相続人になれます。第1順位も第2順位もいなければ、第3順位の人が相続人になります。第1順位から第3順位まで誰もいなければ、相続人不存在ということになります。

相続放棄とは

相続では、相続人は不動産や現金・預金などのプラスの財産だけでなく、借金というマイナスの財産も承継します。

そのため、被相続人が借金を残している場合には、そのままでは借金の支払い義務を引き継いでしまうことになります。

被相続人の借金を引き継がないために、相続放棄という選択肢があります。相続放棄は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てることで手続きできます。

相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされ、その相続とは無関係になります。

相続放棄により次順位の人が相続する可能性がある

同順位の人が全員相続放棄をすれば次順位に移る

被相続人の借金を相続人の誰も引き継ぎたくない場合には、相続人全員が相続放棄をすることを考えると思います。

ここで注意しておかなければならないのは、相続人全員が相続放棄をすれば、次順位の人に相続権が移ってしまうということです。

相続放棄をすれば、その人は最初からいなかったのと同様の扱いになります。つまり、第1順位の相続人が一人もいなくなれば、第2順位の相続人が相続することになります。

もし第2順位の相続人がいないか、いたとしても全員相続放棄した場合には、第3順位の相続人に相続権が移ってしまいます。

相続放棄により次順位の相続人に相続権が移る例

たとえば、亡くなった人に妻と子がいる場合には、妻のほか、第1順位の子が相続人になりますから、それ以外の人は原則的に相続人になることはありません。

しかし、このケースで妻と子のどちらも相続放棄した場合、第2順位の親が生きていれば親が相続することになります。

親も相続放棄した場合には、親より上の祖父母等の直系尊属がいなければ、第3順位の兄弟姉妹がいれば兄弟姉妹(被相続人より先に亡くなっている場合には甥・姪)に相続権が移ります。

相続人は第3順位までしかありませんから、兄弟姉妹が相続放棄してようやく、相続する人が誰もいなくなったことになります。

相続する人がいなくなったら相続財産はどうなる?

相続人がいなくても債権者はお金を返してもらえる可能性がある

相続人全員が相続放棄をし、借金を相続する人がいなくなってしまったら、お金を貸している人(債権者)は、借金の支払いを請求する相手がいないことになります。

しかし、債権者はそこで泣き寝入りしなければならないわけではありません。相続財産に多少なりともプラスの財産がある場合には、債権者はそこからお金を返してもらえる可能性があります。

相続財産管理人が相続財産の清算手続きを行う

相続人がいない場合に相続財産の清算手続きを行うには、相続財産管理人の選任が必要になります。

相続財産管理人とは、被相続人の資産や負債の状況を調査し、債権者に平等に返済するための手続きを行う人のことです。

相続財産管理人は裁判所によって選任され、通常は弁護士や司法書士が相続財産管理人になります。

利害関係人は相続財産管理人の選任申立てができる

相続人がいない場合でも、自動的に相続財産管理人が選任されるわけではありません。相続財産管理人は、家庭裁判所に申し立ててはじめて選任されます。

相続財産管理人の選任を申し立てることができるのは、利害関係人または検察官となっていますから、債権者は利害関係人として申立てが可能です。

相続財産管理人が選任されると、相続財産の調査が行われ、不動産などがあれば売却してお金に換えられることになります。

そして、相続財産の中から、届出した債権者に対して、債権額に応じた割合で支払いが行われます。最終的に相続財産が余った場合には、国庫に帰属することになります。

相続財産管理人が選任されるとは限らない

相続人全員が相続放棄をして相続人がいない状態になった場合、債権者は必ず相続財産管理人の選任を申し立てるとは限りません。

というのも、相続財産管理人選任申立てには費用がかかってしまうからです。

相続財産管理人選任申立ての際には、申立費用(収入印紙)800円、連絡用郵便切手(数千円程度)、官報公告料3775円のほかに、予納金が必要になることがあります。

予納金とは、相続財産管理人の報酬に充てる費用です。相続財産管理人の報酬は原則的に相続財産から支払われますが、相続財産が少なく報酬が払えないと見込まれるときには、申立人が予納金として裁判所に納めておかねばならないのです。

相続財産管理人選任申立ての際の予納金の額は、数十万円~100万円程度になります。

そのため、債権者としては、予納金を払ってもお金を返してもらうメリットがある場合以外は、相続財産管理人選任を申し立てないのが普通です。

まとめ

相続人全員が相続放棄した場合には、次順位の相続人に相続権が移ります。最終的に相続人が誰もいなくなった場合には、誰も故人の残した借金を支払う必要はありません。

なお、相続財産管理人が選任された場合には、相続財産から借金の支払いが行われることがあります。

相続放棄とは | 被相続人(故人)に借金がある場合の対処法

執筆者

行政書士Yurako法務事務所

行政書士 森本 由紀

家族が亡くなったときに、考えざるを得ないのが相続の問題です。相続人は財産だけでなく借金も引き継ぐことになりますから、故人(被相続人)が借金を残している場合には注意が必要です。

ここでは、被相続人に借金がある場合に検討することが多い「相続放棄」について説明します。

被相続人に借金があれば相続放棄を検討

相続人は相続の方法を選べる

相続では、法定相続人(相続人)と呼ばれる一定範囲の親族が、被相続人の残した財産(相続財産)を引き継ぐのが原則になります。相続財産には、現金・預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。

なお、相続人は、必ずしも相続財産の全部を引き継ぐ必要はなく、次の①~③のいずれかの相続方法を選択できます。

①単純承認

原則的な相続方法で、プラスの財産もマイナスの財産もすべて承継する方法です。

②限定承認

プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継する方法です。

③相続放棄

プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しない方法です。

被相続人に借金がある場合にはどの方法が良い?

被相続人に借金がある場合に、単純承認すればその借金を全額引き受けることになってしまいます。借金の負担をなくすためには、限定承認か相続放棄を検討しなければなりません。

限定承認を選べば、被相続人の借金については、相続財産の範囲内でのみ責任を負えば良いことになります。しかし、限定承認は、相続人全員で手続きする必要があるほか、法律に従って相続財産の清算手続きを行わなければならないなど、使いにくい部分が多くなっています。こうしたことから、限定承認は、借金があるけれどもどうしても自宅を残したいなど、特別な事情がある場合にしか利用されていません。

被相続人に借金がある場合に、最もよくとられる方法は、相続放棄になります。相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことになり、被相続人が残した借金の支払い義務を負うことも一切ありません。相続放棄は、それぞれの相続人が単独ですることができます。

相続放棄をするにはどうすればいい?

手続き期限は相続開始を知ったときから3か月以内

相続放棄で最も注意しなければならないのは、手続き期限になります。相続放棄は、相続開始を知ったときから3か月以内に、家庭裁判所で手続きを行う必要があります。何もせずに3か月の期限を過ぎてしまえば、原則として相続放棄はできなくなってしまいます。

相続財産の調査に時間がかかるなどの理由で、どうしても3か月以内に相続放棄ができない場合には、相続放棄の期間の伸長を申し立てることができます。ただし、この場合にも、当初の3か月の期限内に、家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

なお、被相続人に借金があることが全くわからなかった場合には、借金の存在を知ったときから3か月以内の手続きでも相続放棄が認められることがあります。

相続放棄の必要書類

相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、「相続放棄申述書」という書面を提出して行います。相続放棄申述書の書式は、裁判所のホームページからダウンロードできます。(書式

相続放棄申述書には、次のような書類を添付する必要があります。

  • 被相続人の住民票(除票)または戸籍附票
  • 相続放棄をする人の現在の戸籍謄本
  • 被相続人と相続放棄をする人との関係がわかる戸籍(除籍・原戸籍)謄本すべて

相続放棄の手続きの流れ

相続放棄をする場合の手続きの流れは、概ね次のようになります。

1. 必要書類の取り寄せ

相続放棄をする際には、上述のとおり、相続関係がわかる戸籍謄本等が必要になります。複数の役所から取り寄せなければならないケースがほとんどで、必要な戸籍謄本の数も多くなることがありますから、3か月の手続き期限に間に合わせるために、段取り良く取り寄せ作業を進めなければなりません。

2. 家庭裁判所に相続放棄申述書を提出

相続放棄申述書と戸籍謄本等の必要書類を家庭裁判所に提出します。提出は郵送でも可能です。

なお、相続放棄申述書には、手数料として800円の収入印紙を貼付します。また、裁判所との連絡用の郵便切手を予め提出しておく必要がありますので、切手の金額(各裁判所で異なる)を確認して用意します。

3. 家庭裁判所から照会書が届く

家庭裁判所から、相続放棄の意思確認のための照会書が郵送で届きますので、必要事項を記入して返送します。

4. 相続放棄申述受理通知書が届く

家庭裁判所が相続放棄申述書を受理すると、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。

相続放棄を相続債権者に主張するには?

一般的には相続放棄受理通知書を提示すればOK

相続放棄をすれば、被相続人の債権者から借金の支払いを請求されても、そもそも支払い義務がないことになりますから、支払いを拒否することができます。ただし、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしても、裁判所から債権者に通知されるわけではありませんから、自分で債権者に相続放棄を主張する必要があります。

ほとんどの債権者は、家庭裁判所から受け取った相続放棄申述受理通知書のコピーを渡しただけで応じてくれるはずです。しかし、中には相続放棄が受理された旨の証明を要求してくる債権者もいます。また、相続放棄申述受理通知書を紛失してしまった場合には、再発行してもらうことはできませんから、債権者に渡せる書類がないことになってしまいます。このような場合には、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を請求できます。

相続放棄申述受理証明書の請求方法

相続放棄申述受理証明書の発行を希望する場合には、必要な証明書1通につき150円の収入印紙を貼った「相続放棄受理証明申請書」を家庭裁判所に提出して申請します。証明書の申請は郵送でもできますが、返信用切手を同封する必要があります。

なお、申請書には相続放棄を行った際の事件番号と受理年月日を記載する必要がありますので、わからない場合には事前に事件番号等の照会手続きを行ってから申請します。

まとめ

借金を残して亡くなった家族や親戚の相続人になってしまった場合、相続放棄すれば相続を逃れることができ、借金の支払い義務も生じません。相続放棄の期限は3か月とかなり短くなっているため、スピーディーに戸籍謄本等を揃えて家庭裁判所で手続きする必要があります。必要書類の取り寄せに自信がない方は、弁護士や司法書士に依頼するのがおすすめです。