
監修者
元弁護士ライター 福谷 陽子
ローンがまだ終わっていない車がある場合、債務整理をすることで没収されるのではないか、と不安になる方も多いと思います。
結論からいいますと、任意整理と特定調停ではローン返済中の車を残せますが、個人再生と自己破産では難しくなります。
個人再生と自己破産は減額効果が大きい分、特定の借金だけを整理の対象から外すことができないからです。
ただし一定の条件を満たせば、車を手放すに済む可能性はあります。その方法も含めて、債務整理におけるローン返済中の車の取り扱いについてご紹介していきます。
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目次
任意整理と特定調停では、車のローンを整理しなくてもOK!
債務整理の中でも、ローン返済中の車を手元に残せる可能性が高いのは、任意整理と特定調停です。
任意整理と特定調停は、個人再生や自己破産に比べると減額効果は大きくありませんが、その分「交渉したい債権者を自由に選べる」というメリットがあります。
そこで、車のローンを整理の対象から外してほかの借金だけを整理すれば、これまで通り車のローンを返済しながら車に乗り続けられるのです。
一方、車のローンも整理の対象に含めてしまうと、通常は債権者(信販会社やディーラーなど)によって車を引き揚げられてしまいます。これは、ローン返済中の車の多くに「所有権留保」が付いているためです。
所有権留保とは、ローン完済までの間、売主が商品の所有権を一時的に留保することをいいます。こうすることで、万が一ローンの支払いが途中で滞ったり、買主が債務整理をしたりした際に、売主は商品を引き揚げることができるのです。
しかし、銀行や信金などのマイカーローンでは所有権を留保しないことが多く、この場合は債務整理をしても車を引き揚げられずに済みます(ただし自己破産では、評価額が20万円を超えるものはすべて破産管財人によって没収されます)。
ローンが残っていて、かつ所有権留保の付いた車を手放したくない場合は、車のローンを対象から外して任意整理や特定調停を行ないましょう。
個人再生でローン返済中の車を残すための方法とは?
個人再生は、任意整理や特定調停に比べて減額効果が大きい手続きで、債務の額によっては最大で90%もカットしてもらえます。
一方で、個人再生では任意整理や特定調停のように整理したい債権者を自由に選ぶことができません(このことを「債権者平等の原則」といいます)。
もしそのような自由が認められてしまうと、整理の対象になった債権者だけが大きな不利益を被るからです。
つまり個人再生では、車のローンも強制的に整理の対象となり、所有権留保が付いている場合は債権者によって車を引き揚げられてしまいます。
ただし、個人再生でもローン返済中の車を手元に残す方法はいくつかあります。
ローンの残債を一括返済する
もしローンの残りがそれほど多くない場合、一括返済してローンを終わらせるのがもっとも手っ取り早く確実な方法です。ローンがなくなれば、所有権留保を解除して車の名義を自分に変更することもできます。
ただし個人再生には「債権者平等の原則」があるため、特定のローンだけを優先して返済する行為は「偏頗(へんぱ)弁済」にあたり、その分が再生計画案の弁済額に上乗せされる可能性があります。
こうしないと、ほかの債権者との公平を図れないためです。
しかし、親族などが代わりにローンの残債を支払うこと(第三者弁済)は、債権者平等の原則には反しません。そこで、親やその他の親族などに、お金を出してもらってローンを完済すると良いでしょう。
なお、個人再生には、所有する財産の価値以上の額を弁済しなければならないとする「清算価値保障の原則」もあるため、車の価値が高い場合は、個人再生後の弁済額が増える可能性があるので注意しましょう。
「別除権協定」を結ぶ
車のローンを債務整理すると、所有権留保の付いている車は原則として債権者に引き揚げられてしまいますが、これを防ぐ方法として「別除権協定」の締結があります。
別除権協定とは、担保権の設定されている物品を引き続き使用するために、裁判所の許可を得た上で、担保権を持つ債権者と特別に結ぶ合意です。
その代わり、対象となる物品の評価額に相当する金額を支払う必要があります。
所有権留保の付いた車の場合も、債権者と話し合いをして別除権協定を締結し、裁判所に許可をもらえれば、車の評価額相当の金額を支払っていくことで、車を引き揚げられずに済みます。
ただし、裁判所から別除権協定が認められるのは、原則として「事業のために車がどうしても必要」なケースに限られます。たとえば個人タクシーや、個人の宅配業者などが代表的です。
一方、事業ではなく私用だけで車を使っている場合は、基本的に認めてもらえません(交通事情の関係で通勤にどうしても車が必要な場合などは、特別に許可が下りることもあります)。
「担保権消滅許可」を申し立てる
担保権消滅許可は、別除権協定よりも強硬な手段です。車の評価額相当の金額を、裁判所に一括で納めることで、車の所有権留保(担保権)を裁判所の権限で消滅させます。
債権者が別除権協定に合意してくれない場合でも、車を引き揚げられずに済むメリットがありますが、車の価値によっては一括での納付が難しいため、知人や親族に援助してもらうケースが多いです。
また、担保権消滅許可も別除権協定と同じく、車が事業の継続などに必要不可欠である場合のみ認められます。
このように、個人再生でもローン返済中の車を手元に残すための方法はいくつかありますので、どうしても車が必要な場合は弁護士に相談してみてください。
自己破産では、ローン返済中の車を残すのは難しい
ローン返済中の車を手元に残すのがもっとも難しいのは、自己破産をする場合です。
自己破産は、個人再生と同じくすべての借金が対象となるため、車のローンだけを外すことはできません。ですから、所有権留保が付いている車は強制的に引き揚げられてしまいます。
さらに、個人再生よりも財産の所有は厳しく制限されますので、別除権協定のような特別措置も認められていません。
また、ローンの残っていない車であっても、自己破産では「評価額が20万円を超えるもの」は処分の対象となり、換金して債権者に配当されます。
つまり、自己破産で手元に残せる車は「ローンの残債がなく、評価額が20万円以下の車」に限られるということです。
ただし、年式がかなり古いなど、ほとんど価値がない車の場合は、ローンが残っていても例外的に引き揚げられないケースもあります。
まとめ
債務整理をした場合の、ローン返済中の車の取り扱いについてご紹介しました。
任意整理と特定調停では、そもそも車のローンを整理対象に含めないという手段がとれますが、個人再生と自己破産ではそれができません。
特に自己破産でローン返済中の車を手元に残すのは、不可能に近いと言っていいでしょう。
個人再生の場合はいくつかの方法がありますが、そのための条件を満たせるかどうか、また車を残すことで弁済額が増えないかどうか、などの問題もあるため、まずは弁護士に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。