交通事故加害者が自己破産!被害者は損害賠償金をもらえる?

執筆者

元弁護士ライター 福谷 陽子

自己破産をすると、すべての借金支払い義務がなくなると言われています。

この場合、借金だけではなく、すべての「債務」の支払い義務が免除されます。債務には、借入金である借金だけではなく、売買代金や家賃などの支払も含まれます。

交通事故を起こして損害賠償債務を負っている場合に自己破産をすると、その損害賠償債務はどうなるのでしょうか?

自己破産には、免責が認められない非免責債権がありますが、交通事故の損害賠償請求権は非免責債権になって、自己破産後も請求することができるのでしょうか?

今回は、交通事故の加害者が自己破産をした場合に、加害者に対して損害賠償金の支払い請求ができるかどうかを解説します。

交通事故の損害賠償請求権とは

交通事故に遭うと、さまざまな損害が発生します。車が破損して修理費用などがかかることもありますし、怪我をして病院への入通院などが必要になることもあります。

このような交通事故の被害に遭った場合には、相手方(加害者)に対して損害賠償請求をすることができます。交通事故で加害者に損害賠償請求できる内容は、さまざまな費目があります。

まずは、車が破損した場合の修理費、代車費用などの物的損害賠償ができます。また、被害者が怪我をした場合には、病院への入通院の実費、入院雑費や付添看護費、通院交通費などの費用も発生しますし、入通院慰謝料も発生します。

後遺障害が残れば後遺障害慰謝料も発生しますし、逸失利益(事故に遭っていなければ本来受けれたはずの利益のこと)の請求も可能です。もし被害者が死亡してしまった場合には、死亡慰謝料や葬儀費用なども損害賠償の内容に含まれます。

このように、交通事故の損害賠償金の費目は極めて多く、しかもその金額は多額になることがあります。重大な後遺障害が残る事案などでは、損害賠償金が数千万円や1億円を超えることも珍しくありません。

相手方が任意保険に加入していてすんなり支払をしてくれれば良いですが、任意保険会社に加入しておらず、支払能力が無い場合などには、損害賠償請求ができるかどうかが重大な問題になってきます。

自己破産によって支払い義務がなくなる債務の範囲

加害者が任意保険に加入しておらず自己破産をしてしまった場合には、交通事故の損害賠償金はもはや請求することはできないのでしょうか?

そもそも、自己破産によって損害賠償請求権の支払い義務も無くなるのでしょうか?自己破産というと、借金返済義務がなくなる手続きというイメージが強いですが、それ以外の損害賠償請求権なども対象となるのかが知りたいところです。

この点、自己破産をすると、借金以外の支払い義務もなくなります。たとえば、滞納している家賃や滞納している電話代などの料金、取引先からの買掛金なども、すべて免責の対象になります。

免責とは、債務の支払い義務がなくなるという決定のことです。破産者に免責不許可事由がない場合には、裁判所は債務者に免責決定を出すので、自己破産後は債務者は一切の債務の支払義務がなくなるのです。

自己破産によって免責されるのは、広く「債務」全般です。借金(借入金)は、債務の1種に過ぎず、自己破産をすると借金を含めて、それ以外の債務もすべて免責されます。

ここで、免責の対象となる債務には、不法行為にもとづく損害賠償債務も含まれます。

交通事故にもとづく損害賠償請求権も不法行為にもとづく損害賠償債務なので、加害者が自己破産をすると免責の対象になり、請求出来なくなるようにも思えます。

非免責債権とは

交通事故で被害を受けた場合に加害者が自己破産をすると、損害賠償請求権が免責されてしまうので、それ以後一切の損害賠償請求ができなくなってしまうのでしょうか?

ここで、加害者が自己破産をして免責決定を受けても、損害賠償請求ができる余地が残されています。それは、非免責債権の問題です。

非免責債権とは、破産者が免責決定を受けたとしても免責されずに支払い義務が残る債権のことです。

たとえば、税金や健康保険料、年金保険料や罰金などの公的な支払、悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権、故意又は重過失で加えた身体・生命に対する不法行為にもとづく損害賠償請求権、養育費や婚姻費用の支払などが、非免責債権となります。

これらの非免責債権については、自己破産免責の効果が及ばないので、自己破産後も破産者に対して支払い請求をすることができます。

(参考:自己破産をしてもなくならない借金の種類

交通事故の損害賠償請求権は非免責債権となるか

それでは、交通事故の損害賠償請求権は非免責債権に該当して、加害者の自己破産後も支払い請求をすることができるのでしょうか?

以下で具体的に見てみましょう。

悪意で加えた不法行為に該当するか(破産法253条1項2号)

非免責債権の1種として「悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権」があります(破産法253条1項2号)。交通事故の損害賠償請求が、この悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権に該当する可能性はあるのでしょうか。

ここで言う悪意とは、通常の故意を超えた積極的な加害意思であると考えられています。つまり、単に「わざと」というだけではなく、より積極的に相手方を傷つけてやろうという意図が必要だということです。

通常、交通事故で加害者がそこまでの悪意を持っていることは少ないでしょう。よって、悪意で加えた不法行為に該当することによって、交通事故の損害賠償請求ができることはほとんどないと言えます。もしあるとすれば、相手方を傷つけてやろうと考えてわざと車を衝突させてきたケースなどに限られます。

物損の場合には損害賠償請求はできない

交通事故の損害賠償請求権は、「悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権」に該当する可能性はほとんどありません。そこで、次に問題になるのが「故意又は重過失にもとづく生命・身体に対する損害賠償請求権」(破産法253条1項3号)に該当するかどうかということです。

この、故意又は重過失にもとづく生命・身体に対する損害賠償請求権については、2号の場合のように、積極的な加害意思である「悪意」までは必要とされません。単に故意(わざと)または重過失(重大な過失)があれば、成立する可能性があります。

ただし、3号の場合には、不法行為の内容が限定されています。具体的には、「生命・身体」に対する不法行為に限られます。よって、3号を理由にして交通事故の損害賠償請求権を非免責債権としたい場合には、交通事故の物損による損害は対象にならないことになります。

たとえば、高級車などが交通事故で傷つけられて高額な費用がかかったとしても、その損害賠償請求権については非免責債権となる余地がありません。全額が免責されてしまうので、修理費などは被害者の自己負担となってしまいます。

人損の場合には免責されるか

交通事故の損害賠償請求権の中でも金額が大きくなりがちなのは人身損害の方です。重大な後遺障害が残った場合や死亡事故の事案などでは、人身損害にもとづく損害賠償請求権が1億円を超えるケースもあります。

このような人身損害についての損害賠償請求権が、「故意又は重過失にもとづく不法行為にもとづく損害賠償請求権」(破産法253条1項3号)に該当して非免責債権となり、破産した加害者に対して請求をすることができるのでしょうか?

これについては、基本的には難しいと理解されています。

3号で非免責債権とされる損害としては、「故意または重過失」が必要ですが、交通事故では「故意」ということはほとんどありません。わざと交通事故を起こそうとする人など普通はいないからです。そこで、3号が適用される可能性があるのは、重過失がある場合に限定されることになります。

では、3号における重過失とは、どのような場合なのでしょうか?

重過失とは、読んで字のごとく重大な過失ということですが、これは、単なる過失よりも重大な過失が必要だということです。過失とは不注意のことですが、重過失と言う場合には、単なる不注意以上に重大な不注意があったことが要求されます。

たとえば、単に脇見運転をしていたなどの場合には、重過失があったとは認められません。

重過失があったというためには、たとえば無免許運転をしていたり、飲酒運転をしていたり、危険運転罪が適用されるような特殊な事案に限られてくるでしょう。

よって、交通事故の損害賠償請求権があっても、加害者が自己破産をすると、基本的にはその損害賠償請求権は免責されて、加害者に対して支払い請求ができなくなります。

加害者が自己破産をしても損害賠償ができるケースというのは、交通事故が人身事故であり、なおかつ相手方が相当悪質な場合に限られることになります。

免責されるかどうかを争う方法

相手方が悪質なケースには損害賠償請求権が非免責債権となり、加害者に対して支払い請求ができる可能性がありますが、この場合にも相手方がすんなり支払に応じるとは限りません。

交通事故の加害者が自己破産をした場合、相手方としては「もうすでに自己破産をして免責を受けたから、支払い義務は残っていない」と考えていることが多いです。加害者自身が「交通事故に関しては非免責債権になるので、支払をしなければならない」などと理解していることの方が稀でしょう。

よって、この場合、被害者が加害者に損害賠償請求をしても、加害者は「すでに免責を受けており、支払い義務はない」と主張して争ってくる可能性が高いです。

このように、自己破産をした加害者に交通事故の損害賠償請求をしたい場合には、どのような方法をとればよいのでしょうか?

以下で、手順を追って説明します。

まずは内容証明郵便を送る

交通事故の加害者に対して損害賠償請求をする場合には、まずは内容証明郵便を利用して請求書を送りましょう。

内容証明郵便とは、郵便局と差し出し人の手元に、相手方に送付したのと同じ内容の控えが残るタイプの郵便です。その日確実にその内容の請求書を送ったという事実が後からでも証明出来ますし、相手方から「そんな請求は受けていない」と言われる可能性もなくなります。

また、内容証明郵便によって、相手方にプレッシャーを与える効果もあります。これによって、相手方が話し合いに応じてくれば、示談交渉をして、損害賠償金の支払を受けることができます。

裁判を起こす

内容証明郵便を利用して請求書を送っても相手方が支払に応じない場合には、裁判を起こして損害賠償請求を行う必要があります。この場合の裁判の内容は、不法行為にもとづく損害賠償請求事件となります。

そして、この裁判手続きの中で、損害賠償請求権が非免責債権に該当するかどうかを争い、最終的に裁判所に判断してもらうことになります。

相手方が悪質で「故意」や「重過失」があれば非免責債権となって支払が認められますし、そのような事情がなければ損害賠償請求権は自己破産によって免責されているという判決になります。

時効に注意

加害者が自己破産した後に損害賠償請求を行う場合には、時効に注意する必要があります。損害賠償請求権の時効は「3年」です。よって、損害賠償請求をするには、交通事故発生後3年以内に手続きをする必要があります。

交通事故後加害者が自己破産した場合には、事故後かなりの期間が経過していることが多いので、特に時効の問題に注意する必要があります。

相手方から支払いを受けられない場合の対処方法

交通事故の加害者が自己破産をして免責を受けたことにより、損害賠償請求ができなくなってしまった場合には、もはや一切の保障を受けることができないのでしょうか?

そんなことはありません。この場合には、自分の保険を手厚くしておくことが効果的です。

人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険、無保険者傷害保険などに加入していれば、それぞれの保険内容に応じた支払いを受けることができます。

たとえば無保険者傷害保険であれば、自分の保険の対人賠償責任保険と同額か、もし無制限にしている場合には2億円程度までの保険金を受け取ることができます。

人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険では、自分だけではなく同乗者が怪我をした場合などにもその分の保険金を受け取ることが可能です。

このように、交通事故によるリスクを減らすためには、自分の側の任意保険の内容も充実させておくことが大切です。

まとめ

今回は、交通事故の加害者が自己破産した場合の損害賠償請求権について解説しました。加害者が自己破産すると、基本的に損害賠償請求権も免責されてしまいます。

加害者がよほど悪質な場合を除いては、請求が認められないことが多いです。加害者の自己破産後に損害賠償請求をする場合には、まずは内容証明郵便で支払の請求をしてから、損害賠償請求訴訟を起こすと良いでしょう。損害賠償請求権の3年の時効にも注意する必要があります。

今回の記事を参考にして、加害者が無保険の場合などにも、上手に交通事故の損害賠償手続きを進めましょう。

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