
執筆者
元弁護士ライター 福谷 陽子
子どもの進学資金などのために、教育ローンを利用する事はよくあります。たとえば大学や高校、専門学校の入学金や授業料などの支払いに充てるために、親が金融機関などから借入をするのです。
教育ローン貸し付けを行っている機関はいろいろありますが、その中に「国の教育ローン」があります。国の教育ローンとは具体的にはどのようなローンで、どのような特徴があるのでしょうか?
また、近年不景気などもあって、国の教育ローンを返済出来ない人が増えています。国の教育ローンを利用している場合、個人再生が難しくなる可能性があると言われていますが、その理由はどうしてなのでしょうか?
今回は、国の教育ローンとその返済ができない場合の個人再生手続きについて、解説します。
現在国の教育ローンは個人再生に同意してくれるケースが多くなっています。個人再生で大幅に減額できる可能性が高いので1人で悩まず専門家に相談してみましょう!
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目次
国の教育ローンとは
国の教育ローンとは、どのようなローンなのでしょうか?貸し付けているのは誰で、どのような特徴があるのかについても理解しておく必要がありますので、以下で具体的に解説します。
日本政策金融公庫による教育ローン
教育ローンとは、子どもの進学費用などのために親が借り入れをするローンのことです。通常の銀行等の金融機関などでも、教育資金目的で貸し付けをしていることがありますので、その場合には教育ローンになります。
近年では、子どもの進学に多額の費用がかかるようになってきているので、教育ローンを利用する人はとても多いです。
国の教育ローンとは、教育ローンの中でも「日本政策金融公庫」という政府系の金融機関が実施している教育ローンのことです。民間の銀行等の金融機関ではなく政府系の公庫が行っているので、「国の」教育ローンと言われています。
日本政策金融公庫は、昔の国民生活金融公庫です。国民生活金融公庫は「国金」などと言われることもあり、こちらの名称になじみのある人も多いでしょう。
この国民生活金融公庫と中小企業金融公庫という2つの公庫が統合されてできたのが、日本政策金融公庫です。国民生活金融公庫から日本政策金融公庫に変わったのは2008年のことです。
日本政策金融公庫は、民間の銀行から貸し渋りされがちな中小企業に向けた融資数多く取り扱っています。この日本政策金融公庫が個人向け融資として積極的に取り組んでいるのが、国の教育ローンなのです。
国の教育ローンで借りたお金の使用目的は、借入後1年の間に必要な教育関係の費用です。借り入れた資金は、大学や高校、専門学校などの学校に支払う目的だけではなく、下宿費用などの住居費や受験のための費用、教材費や国民年金保険料などへの支払をすることも認められています。
世帯年収に上限がある
国(日本政策金融公庫)の教育ローンには、民間の金融機関による教育ローンと比べてどのような特徴があるのでしょうか?
まず、最大の特徴として、教育ローンを利用するための世帯年収に上限が定められていることが挙げられます。
通常の金融機関は、貸し付ける相手から確実に返済を受けたいので、なるべく年収の高い人に貸し付けを行います。よって、貸し付ける相手について、最低限の年収を定めていることはありますが、年収に上限を定めることはまずありません。年収が多くて返済ができなくなることは通常考えられないからです。
これに対して、国の教育ローンは借り入れる人の世帯年収に上限があります。これは、国の教育ローンの目的と関係します。
国の教育ローンは、経済的に恵まれない家庭の子ども達が、家庭状況によって教育を受ける機会を奪われることを回避するためにもうけられた貸付制度です。純粋に営利目的である銀行等の民間の金融機関とは、目的が少し異なるのです。
そこで、返済の確実性よりも、教育ローンを受ける必要性の方を重視して貸し付けを行うのです。世帯年収が高い家庭の場合には、教育ローンを利用しなくても自分たちの収入で子どもに教育を受けさせることが可能になります。
これに対して、年収が低い人の場合には、お金が足りずに子どもに充分な教育を受けさせることができないおそれが高まります。そこで、世帯年収が低い家庭を対象として、教育ローン貸し付けを実施しているのです。
国の教育ローンを利用出来るための世帯年収の上限は、以下のとおりです。
子どもの人数 | 世帯年収(給与所得者) | 世帯年収(事業所得者) |
---|---|---|
1人 | 790万円 | 590万円 |
2人 | 890万円 | 680万円 |
3人 | 990万円 | 770万円 |
4人 | 1090万円 | 860万円 |
5人 | 1190万円 | 950万円 |
たとえば、サラリーマンなどの給与所得者の場合、子どもが2人なら、年収が500万円なら国の教育ローンを利用出来ますが、年収が1000万円なら利用出来ないことになります。
もし民間の銀行等で借入をする場合には、逆の結果になることが多いでしょう。
利息が低い
国の教育ローンには、借入利息が低いという特徴もあります。
国の教育ローンは、前にも説明した通り、経済的に恵まれない家庭の子ども達に教育を受けさせることを目的としています。よって、経済的に苦しい家庭でも利用しやすいように、貸付利率を低くしているのです。このようなことも、純粋に営利目的ではない国の教育ローンであるからこそできる対処です。
たとえば国の教育ローンの貸し付け年利は2.35%くらいですが、民間の銀行の場合には2.5%程度以上になることも多いです。
また、国の教育ローンの貸付金額の上限は子どもひとりについて300万円です。
この上限の金額は、民間の金融機関と比べて低くなっていることが多いです。民間の銀行などの教育ローンでは、貸し付けの上限は500万円になっていることがもっとも多く、700万円までの貸し付けを認める金融機関もあります。
国の教育ローンを返済出来ない人が増えている
国の教育ローンは、世帯年収が低くても利用出来ますし、借入利率も比較的低いので、経済的に厳しい家庭でも利用しやすいです。実際に多くの親が国の教育ローンを利用して借入をして、子どもを大学などに進学させています。
しかし、この国の教育ローンを返済出来ない人が増えています。もともと経済的に苦しい人が利用していることが多いので、返済ができなくなる割合も高いのです。
国の教育ローンと個人再生
国の教育ローンを返済出来ない人が増えていますが、返済ができなくなると債務整理をして解決する必要があります。
債務整理には、任意整理と特定調停、個人再生と自己破産の4種類がありますが、国の教育ローンがある場合、この中でも個人再生を利用する際に問題が起こることが多かったのです。以下で、その理由を説明します。
個人再生とは
そもそも、債務整理手続きの中でも個人再生とはどのような手続きなのでしょうか?
個人再生とは、裁判所に申立をして借金返済額を大幅に減額してもらい、その減額された借金を原則3年間の間に債権者に対して返済していく手続きのことです。
3年での支払がどうしても苦しい場合には、5年にまで返済期間を延ばしてもらうことも可能です。この支払を完了すれば、借金は完済されたことになります。たとえば、借金額が500万円ある場合には最大100万円にまで借金が減額されることになります。
個人再生を利用すると、住宅ローン支払い中であっても、住宅ローンだけはそのまま支払を続けて他の借金だけを減額することができる「住宅ローン特則」が利用出来ます。
住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンがあっても自宅を守ったまま借金問題を解決することができます。
このように、個人再生を利用すると、借金額が大幅に減額できる上に住宅を守りやすいなどのメリットもあるので、債務者に大変な人気があり、多くの人が個人再生を利用して借金問題を解決しています。
個人再生と債権者の同意
個人再生を利用したい場合には、注意しなければならない点があります。それは、個人再生で再生計画案が認可されるためには、債権者の「同意」が問題になるということです。
個人再生では、具体的な返済計画を定めた再生計画案を裁判所に提出して、認可してもらわなければなりません。再生計画が認可されなければ、借金の減額は認められず、個人再生は失敗してしまうのです。
そして、個人再生の中でも多くの人が利用している「小規模個人再生」では、裁判所が再生計画案を認可するかどうかを決定する際に、債権者の意見を聞きます。
このとき、過半数の数や債権額の債権者が異議を出せば、その再生計画案は認可されないことになって、個人再生は廃止されてしまうのです。
個人再生が廃止されると、借金が減額されることはありません。借金は元のまま残るので、債権者から督促が来る状態に戻ってしまいます。
再生計画案に対する債権者の異議の計算においては、債権者の頭数だけではなく債権金額も問題になります。
たとえば5人の債権者がいて、借金の額が500万円のケースを考えてみます。
この場合、3名の債権者が再生計画案に異議を出せば、過半数の債権者が異議を出したことになるので、その再生計画案は認可されません。
また、1名の債権者が再生計画案に異議を出した場合であっても、その1名の債権者の債権額が250万円を超えていると、やはりその再生計画案は認可されないことになってしまいます。この場合には、過半数の債権額の債権者が再生計画案に異議を出したことになるからです。
公庫は個人再生に同意するのか?
国の教育ローンの返済ができなくなった場合に個人再生をした場合にも、再生計画案が認可されるためには債権者の同意が必要になります。
では、国の教育ローンの債権者である日本政策金融公庫は個人再生の再生計画案に同意してくれるのでしょうか?
この点、日本政策金融公庫の前身である国民生活金融公庫の時代には、公庫が再生計画案に異議を出してくることが多くありました。
教育ローンの借入額は大きくなることが多いので、個人再生を申し立てる債務者の借金の内訳を見ると、国の教育ローンの比率が総債務額の半額を超えることもよくありました。
この場合に国民生活金融公庫が再生計画案に異議を出してくると、再生計画案は認可されないことになってしまいます。
よって、国民生活金融公庫の時代には、国の教育ローンがある人が個人再生を申し立てると、公庫の異議によって再生計画案が認可されず、個人再生に失敗するパターンがよく起こっていました。
しかし、今は少し状況が異なります。2008年に国民生活金融公庫は日本政策金融公庫にかわりましたが、その頃から公庫の個人再生への対応が変わり始めました。
最近では、日本政策金融公庫が再生計画案に異議を出してくることはあまりありません。よって今は、国の教育ローンを利用している場合であっても、個人再生の申立をすることにさほど躊躇する必要はありません。
個人再生できない場合の対処方法
国の教育ローンを利用している場合、日本政策金融公庫が再生計画案に異議を出してくることが減ったとは言え、絶対に異議を出さないというわけではありません。
今でも日本政策金融公庫が大口の債権者となっている場合には、公庫の異議によって再生計画案が認可されない事になってしまうこともあり得ます。このような場合、どう対処すれば良いのでしょうか?以下でその対処方法をご紹介します。
給与所得者等再生を利用する
日本政策金融公庫が再生計画案に異議を出してきたため、再生計画案が認可されない場合には、個人再生手続きの中でも「給与所得者等再生手続き」を利用することが効果的です。
給与所得者等再生手続きは、個人再生の中でもサラリーマンや公務員などの給与所得者が利用出来る手続きです。給与所得者等再生では、再生計画案が認可されるために債権者の同意は不要です。
たとえ債権者が全員再生計画に反対している場合であっても、他の要件を満たしていれば再生計画案は認可されます。よって、公庫が異議を出して小規模個人再生を利用出来ないなら、給与所得者等再生手続きの利用を検討してみましょう。(参考:「小規模個人再生」「給与所得者等再生」の違い)
自己破産手続きを利用する
給与所得債務者等再生を利用出来るのは、サラリーマンや公務員などの給与所得者だけです。個人事業者などの場合に利用する事はできません。
この場合に日本政策金融公庫が再生計画案に異議を出してきて、再生計画案が認可されない場合には、債務整理手続きの中でも自己破産を利用して解決する方法があります。
自己破産をすると、借金返済義務が完全に0になります。教育ローンの返済義務も完全になくなるので、返済の必要はなくなります。
また、自己破産をするために債権者の同意は不要です。すべての債権者が破産免責(借金がなくなること)に反対していても、他の要件を満たしていれば借金は0になります。
よって、個人事業者などの場合で公庫が再生計画案に異議を出したために個人再生ができない場合には、自己破産をして解決しましょう。もちろん、サラリーマンや公務員などの給与所得者であっても、自己破産を利用する事は可能です。
まとめ
今回は、国の教育ローンがある場合の個人再生手続きについて解説しました。
国の教育ローンとは、日本政策金融公庫という政府系の金融機関が実施している教育ローンのことです。
国の教育ローンを支払えない人も増えています。国の教育ローンがある場合に個人再生する場合、過去には国の教育ローンの実施者であった国民生活金融公庫は再生計画案に異議を出すことが多かったので、失敗することがよくありました。
しかし、今は日本政策金融公庫が異議を出すことは少なくなっています。公庫が異議を出してきて個人再生が利用出来ない場合には、給与所得者等再生や自己破産を利用して解決しましょう。