
執筆者
元弁護士ライター 福谷 陽子
個人再生を利用すると、借金返済義務を大幅に減額できます。また、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することによって、住宅ローン支払い中でも住宅を守りながら、他の借金だけを減額することもできて大変便利です。
このように便利で人気のある個人再生手続きですが、実は個人再生手続きには2種類があります。1つは「小規模個人再生」で、もう1つは「給与所得者等再生」です。
この2つの個人再生手続きには、どのような違いがあるのでしょうか?どちらの手続きがどのようなケースに向いているかも知っておきたいところです。
今回は、個人再生手続きの2種類である、小規模個人再生と給与所得者等再生手続きの違いについて、解説します。
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目次
小規模個人再生と給与所得者等再生手続きの違い【一覧表】
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いについて、まずは一覧表にて確認しましょう。
小規模個人再生 | 給与所得者等再生 | |
---|---|---|
収入 | 収入の変動があってもできる | 変動が大きいとできない |
最低弁済額 | 負債総額によって決まる金額・持っている財産の額 のいずれか高い方 | 負債総額によって決まる金額・持っている財産の額・可処分所得の2年分のいずれか高い方 |
再生計画案に対する債権者の異議による影響 | 過半数の数や金額の債権者から異議があると認可されない | 債権者からの異議は問題にならない |
将来の給与所得者等再生手続きの利用 | 可能 | 認可決定後7年以内には利用できない |
将来自己破産できるか | 可能 | 認可決定後7年以内には利用出来ない |
手続きに向いている人 | 収入に変動がある人 債権者が再生手続きに反対していない場合 | 大口の債権者が再生手続きに反対している場合 |
小規模個人再生とは
そもそも小規模個人再生や給与所得者等再生はどのような手続きなのでしょうか?
まず、小規模個人再生について説明します。小規模個人再生とは、個人再生手続きの中でも原則的な手続きです。
小規模個人再生を利用すると、借金返済額が大幅に減額され、その減額された借金を、手続き後原則3年間の間に債権者に対して支払っていく必要があります。この支払を終えれば、借金は完済された扱いになります。
小規模個人再生を利用するためには一定の収入が必要になります。収入要件については、個人再生手続き中に裁判所から厳しく審査されます。
給与所得者等再生とは
給与所得者等再生とは、個人再生手続きの中でも、サラリーマンや公務員などの「給与所得者」が利用する事のできる手続きです。
給与所得者等再生を利用する場合にも、裁判所に申立をして借金返済額を大幅に減額してもらうことができます。小規模個人再生と同様、住宅資金特別条項を利用すれば、住宅を守りながら他の借金だけ減額してもらうことも可能です。
また、手続き後の返済期間も小規模個人再生と同様、原則3年になります。しかし、給与所得者等再生は、小規模個人再生よりも厳格に収入要件が必要になりますし、小規模個人再生よりも最低弁済額が高くなることが多いです。
このような違いが生じる理由については、以下の項目で詳しく説明します。
収入に変動がある場合に利用出来るかどうか
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いについて、まず1番に挙げられるのは、収入の変動がある場合に利用出来るかどうかです。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合にも、一定額以上の安定した収入が必要になります。具体的には、手続き後に債権者に返済をするに足りる程度の収入(金額)が必要ですし、その収入が安定していることも必要になります。しかし、小規模個人再生の場合には、収入状況に多少変動があっても利用する事ができます。
たとえば、1年の間に変動の大きい個人事業者などであっても、小規模個人再生なら利用することができます。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合には、収入要件が小規模個人再生の場合よりさらに厳しくなります。
債権者に対して返済を継続して行くに足りる継続した収入があるだけではなく、これが給与所得などで極めて安定していることが要求されるのです。
よって、給与所得者等再生を利用出来るのは、サラリーマンや公務員などの給与所得者だけだと考えると良いです。
小規模個人再生のように、自営業者の場合には給与所得者等再生手続きは利用できません。もちろん、アルバイトやフリーターの人も給与所得者等再生を利用することはできません。
このように、小規模個人再生と給与所得者等再生では、収入の変動がどの程度許されるかという点に大きな違いがあります。
最低弁済額の違い
小規模個人再生と給与所得者等再生には、債権者に対する最低弁済額にも大きな違いがあります。以下で具体的に見てみましょう。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合の最低弁済額は、以下の2つの数字のうち、大きい方の金額になります。
- ① 借金(負債)の総額に応じて決まる金額
- ② 債務者が所有している財産の総額分
1つ目は、① 借金(負債)の総額に応じて決まる金額です。具体的には以下の通りになります。
借金額 | 減額幅 |
---|---|
100万円以下 | そのまま |
500万円未満 | 100万円 |
500万円以上1500万円未満 | 5分の1 |
1500万円以上3000万円未満 | 300万円 |
3000万円以上5000万円以下 | 10分の1 |
また、小規模個人再生の場合、② 債務者が所有している財産の総額分は最低限支払をしないといけません。
よって、債務者が所有している財産の額が、上記の負債総額によって決まる金額より大きい場合には、その財産の総額が最低弁済額になります。
たとえば借金額が500万円の場合、財産がなければ最低弁済額は100万円になりますが、300万円分の財産をもっている場合には、最低弁済額は300万円になります。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合には、小規模個人再生の場合より最低弁済額が高くなることが多いです。
給与所得者等再生の最低弁済額は、以下の3つの数字のうち、もっとも大きい金額になります。
- ① 負債総額によって決まる金額
- ② 債務者の所有する財産の総額
- ③ 可処分所得の2年分
1つ目は小規模個人再生と同様、① 負債総額によって決まる金額です。そして、2つ目も小規模個人再生と同様、② 債務者の所有する財産の総額です。これに足して、給与所得者等再生の場合には、3つ目の基準があります。それは、③ 可処分所得の2年分という基準です。
可処分所得とは、給料や賞与などの個人所得の金額から、支払を義務づけられている税金や社会保険料などを差し引いた後の、「手取り収入」です。
自由に使える所得の総額だと考えるとわかりやすいです。給与所得者等再生の場合には、この可処分所得を計算した上で、その2年分は最低弁済額として債権者に支払をすることが必要になります。
可処分所得の2年分の金額は、多くの場合で①の負債総額から決まる金額や、②債務者の財産の総額よりも高い金額になります。よって、給与所得者等再生を利用すると、小規模個人再生を利用した場合よりも最低弁済額が高くなることが多いです。
このこともあって、サラリーマンや公務員などの給与所得者等再生を利用出来る人であっても、個人再生をする場合には、小規模個人再生を選択することが多いです。
再生計画案に対して債権者の同意が必要かどうか
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いには、再生計画案に対して債権者の同意が必要かどうか(債権者の異議が影響を及ぼすかどうか)があります。
以下で、順番に見てみましょう。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合には、再生計画案の認可に際して、債権者の意見が影響を持ちます。
具体的には、過半数の債権者から異議が出ると、その再生計画案は認可されないことになります。この場合の過半数というのは、債権者の頭数の過半数だけではなく、債権額の過半数も含みます。
たとえば、債権者が5名の場合に3名が再生計画案に異議を出すと、その再生計画案は認可されません。債権者が5名で債権額が500万円の場合、1名の債権者が異議を出したケースであっても、その1名が250万円以上の債権を持っている場合には、やはり再生計画案は認可されないことになります。
このように、小規模個人再生では、大口の債権者が個人再生に反対していると、手続きを進めることが難しくなります。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合には、再生計画案の認可に際して債権者の意見は問題になりません。たとえ大口の債権者が個人再生に反対していても、債権者が全員個人再生に反対している場合であっても、給与所得者等再生の場合であれば、他の要件を満たしていれば再生計画案が認可されます。
よって、債権者の多くや大口の債権者が個人再生に反対している場合には、給与所得者等再生を利用するメリットが大きくなります。
将来の給与所得者等再生の利用の可否
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いは、いったんこれらの個人再生手続きを利用した後、将来給与所得者等再生手続きを利用出来るかどうかという点にも顕れます。
以下で具体的に見てみましょう。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合には、いったんこの手続きを利用して再生計画案認可してもらい、借金を減額してもらっても、その後給与所得者等再生手続きを利用する事は自由にできます。
小規模個人再生による完済後も給与所得者等再生手続きを申し立てることができますし、返済中の状態であっても給与所得者等再生を申し立てることができます。もちろん、再度小規模個人再生手続きを申し立てることも可能です。
このように、小規模個人再生の場合には、再度の申立について何の制限もありません。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合には、いったんこの手続きを利用して再生計画案が認可されたら、その後「7年間」の間は再度給与所得者等再生を利用する事はできません。
もちろん、給与所得者等再生の返済中も再度の申立はできませんし、完済後も、再生計画案の認可から7年間は再度給与所得者等再生を利用することができないのです。
また、給与所得者等再生を利用したい場合、その手続前の7年間に自己破産していると、手続きを利用出来ません。
給与所得者等再生をしたり自己破産をした後は、その後7年間の間は給与所得者等再生をすることはできなくなるのです。
将来の自己破産手続きの利用の可否
小規模個人再生と給与所得者等再生の違いには、手続きを利用した後将来自己破産できるかどうかということにもあらわれます。以下で具体的に見てみましょう。
小規模個人再生の場合
小規模個人再生の場合には、手続きの利用後に自己破産することについて制限がありません。小規模個人再生を利用して再生計画案を認可してもらったけれども、やはりその支払がどうしても苦しい場合などには、自己破産によって解決することができます。
もちろん、小規模個人再生の支払を完済した後でも、自己破産することは自由にできます。
給与所得者等再生の場合
給与所得者等再生の場合には、手続きの利用後に自己破産することが制限されます。給与所得者等再生を利用して再生計画案が認可され、その支払いを完済した場合、再生計画案が認可されたときから7年間の間は自己破産することができなくなります。
よって、将来自己破産することを視野に入れて検討しなければならない場合には、給与所得者等再生を利用することは得策ではありません。
それぞれの手続きに向いている人
最後に、それぞれの手続きに向いている人を確認しましょう。
小規模個人再生手続きに向いている人
小規模個人再生に向いている人は、収入に変動のある個人事業者など、給与所得者以外の人です。また、給与所得者であっても、債権者が個人再生に反対していない場合には、小規模個人再生を利用する方が借金の減額幅が大きくなりやすく、自己破産手続きとの関係などを考えてもメリットがあります。
給与所得者等再生手続きに向いている人
給与所得者等再生に向いている人は、サラリーマンや公務員などの安定収入のある給与所得者であり、かつ債権者が個人再生に反対しているケースです。
債権者が個人再生に反対していないなら、給与所得者であっても小規模個人再生を利用した方がメリットが大きいです。
まとめ
今回は、小規模個人再生と給与所得者等再生の違いについて解説しました。
小規模個人再生と給与所得者等再生の大きな違いは、収入に変動が許されるかどうかという点や最低弁済額の要件、再生計画案の認可に対する債権者の意見の影響、将来の給与所得者等再生や自己破産の利用の可否などです。
サラリーマンや公務員などの給与所得者であっても、債権者が個人再生に反対していなければ、小規模個人再生の方が借金減額幅も大きく、メリットが大きいです。今回の記事を参考にして、状況に応じた適切な個人再生手続きを選択しましょう。