個人再生の「住宅ローン特則」

執筆者

元弁護士ライター 福谷 陽子

個人再生を利用すると、裁判所の決定によって、借金返済額を大幅に減額してもらうことができますが、個人再生には借金を減額する以外にも大きな効果があります。

それは、個人再生の「住宅資金特別条項」です。住宅資金特別条項を利用すると、住宅ローンがある場合であっても住宅ローン以外の他の借金だけを減額して、住宅を守りながら借金問題を解決することができます。

住宅資金特別条項は「住宅ローン特則」などとも呼ばれていますが、住宅ローン特則とは、いったいどのような制度なのでしょうか?どのような場合に利用できるのかも知っておく必要があります。

そこで今回は、個人再生の住宅ローン特則について解説します。

住宅ローン特則とは

個人再生の住宅ローン特則(住宅資金特別条項)とは、どのような制度なのでしょうか?以下で具体的に見てみましょう。

住宅ローンを債務整理すると住宅は無くなる

そもそも債務整理をすると住宅ローンはどうなってしまうのでしょうか?

債務整理をする場合、住宅ローンを対象にする場合としない場合があります。住宅ローンを債務整理の対象にしなければ、債務者がそのまま住宅ローンの支払いを継続しますので、何の問題も起こりません。住宅ローンを滞納しない限り、家に住み続けることが可能です。

これに対して住宅ローンを対象にして債務整理をした場合には、大きな問題が起こります。住宅ローンを組む場合、購入した自宅に住宅ローン債権者や保証会社による抵当権を設定しています。

そして、住宅ローンを債務整理すると、住宅ローン債権者は抵当権にもとづいて自宅の競売を申し立ててしまいます。

すると、自宅は競売手続きにかけられて、新たな所有者のものになります。よって、住宅ローンを債務整理の対象にした場合には、住宅はなくなります。住宅ローンを3ヶ月や6ヶ月以上など長期滞納した場合にも、やはり住宅ローン債権者が抵当権を実行するので、住宅は失われることになります。

個人再生には債権者平等の原則がある

では、個人再生を利用する場合には、住宅ローン債権者を外して手続きをすすめることにより、住宅を守ることができるのでしょうか?この点、そのようなわけにはいきません。

個人再生では、すべての債権者を平等に取り扱わなければならないという「債権者平等の原則」が働きます。債権者平等の原則に違反して一部の債権者にのみ支払をした場合などには、個人再生の再生計画案が不認可になるなどして、個人再生に失敗してしまうこともあります。

よって、個人再生では、住宅ローンのみを特別扱いすることは認められません。原則としては、住宅ローンも手続きの対象にして、減額の対象にしなければならないのです。

個人再生の住宅ローン特則を利用すると、住宅ローン以外の借金を減額出来る

個人再生で債権者平等の原則を貫いて住宅ローン債権までを減額の対象とすると、自宅は失われることになります。ところが、借金に苦しむ債務者が住宅ローンを支払って自宅に住んでいる場合、その利益を守る必要があります。そこで、個人再生に特別に認められたのが「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」です。

住宅ローン特則を利用すると、個人再生で債権者平等の原則があるにもかかわらず、住宅ローンだけはそのまま全額の支払いを継続することが認められます。そして、他の借金だけを減額することができるのです。これが、個人再生の住宅ローン特則のもっとも基本的な内容です。

また、個人再生では、必ずしも住宅ローン特則を利用しなければならないわけではありません。住宅ローンがあっても、住宅ローン特則を利用せず、原則通りに住宅ローンも個人再生の減額の対象にすることも可能です。

この場合には、住宅ローンは減額されますが、その代わり自宅はなくなることになります。また、減額された後の住宅ローン債務は完済まで支払を継続する必要があります。

住宅ローン特則と任意整理との違い

任意整理で住宅ローンを外して手続きした場合

個人再生の住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンの支払いはそのまま継続して、他の借金だけを減額することができますが、任意整理でも同じ結果を得ることができるのではないかと思われることがあります。

任意整理では、個人再生と違って債権者平等の原則が働かないので、すべての債権者を手続きの対象にする必要はありません。任意整理をする場合には、住宅ローン債権者を外して手続きすることができるのです。

この場合、住宅ローンはそのまま支払を継続して、他の借金のみ整理することになるので、個人再生の住宅ローン特則と同じではないかということになります。

住宅ローン特則では借金を大幅に減額できる

しかし、実際には任意整理と個人再生の住宅ローン特則は、結果が全く異なります。

まず、任意整理を利用した場合には、借金額の減額が難しいことが挙げられます。任意整理では、利息制限法を超過した利率での取引がない限り、借金元本の減額ができないことが多いので、手続き後、借金の金額が原則的に全額残ってしまいます。よって、整理したとしても、支払金額はそれなりに多くなります。

これに対して、個人再生では借金の額が大幅に減額されます。よって、手続き後支払が必要になる金額が大きく減らされます。これらの違いによって、手続き後の負担が大きく代わってくるのです。

任意整理と住宅ローン特則の具体例

任意整理と住宅ローン特則の違いをわかりやすく理解するために、以下で具体例を見てみましょう。

たとえば借金額が500万円あって、住宅ローン返済額が月々8万円のケースを考えます。

この場合、整理前は住宅ローン以外の借金返済が10万円だったとして、住宅ローンと合計すると、月々18万円支払っていたとしましょう。

この場合に住宅ローン以外の借金を任意整理したら、整理後は、返済期間を5年間にしたとしても、住宅ローン以外の借金返済は月々8万4千円弱になります。これでは、もともと10万円だったものが8万4千円になるだけで、たいして返済が楽になりません。

しかも、これに足して住宅ローンの8万円の返済もしなければならないので、月々16万4千円程度の支払が必要になります。

これに対して個人再生の住宅ローン特則を利用した場合を考えてみましょう。個人再生を利用すると、500万円の借金が100万円に減額されて、それを3年間にわたって支払をしていくことになるので、月々の借金返済額は2万8千円程度になります。

もともと10万円だった借金返済額が2万8千円になり、しかも返済期間も3年間と短くなるので、非常に返済が楽になります。住宅ローンの8万円を足しても、月々10万8千円の負担にまで減らすことが可能です。

以上の結果を見比べてみると、任意整理と住宅ローン特則のどちらにメリットがあるかは一目瞭然です。住宅ローン特則では、大きく借金額を減額できる点が任意整理とは全く異なるのです。

住宅ローンの巻き戻しとは?

個人再生の住宅ローン特則には、「住宅ローンの巻き戻し」という効果もあります。これも、任意整理では認められない住宅ローン特則特有の効果です。以下で具体的に説明します。

代位弁済がなかったことになる

個人再生の住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンの巻き戻しが起こります。住宅ローンの巻き戻しとは、住宅ローンを滞納して保証会社が住宅ローンを代位弁済してしまった後でも、その代位弁済がなかったことになるという効果です。

住宅ローンは、3ヶ月や6ヶ月など長期滞納すると、保証会社が代位弁済をして一括で住宅ローン残金を元の住宅ローン債権者に支払ってしまいます。すると、保証会社は、その支払をした住宅ローン残額と高額な遅延損害金を、債務者に一括請求してきます。

こうなると、もはや元のように住宅ローンを分割払いすることはできません。一括払いに応じられない場合には、自己破産しなければならないことも多いです。

そして、家自体は競売にかけられて失われることになってしまいます。これでは、家を守るどころではありません。

そこで、個人再生の住宅ローン特則を利用する場合には、いったん保証会社が代位弁済した後であっても、それをなかったことにして代位弁済前の状態に戻し、再度住宅ローンの分割払いができるようにしているのです。これを住宅ローンの巻き戻しと言います。

団体信用生命保険も復活する

住宅ローンを滞納して保証会社が代位弁済した場合には、住宅ローンに附随する「団体信用生命保険」も失効してしまいます。しかし、住宅ローン特則を利用して住宅ローンの巻き戻しが起こって代位弁済がなかったことになれば、団体信用生命保険も復活することになります。

このことによって、住宅ローン返済中に債務者に何かあっても住宅ローンが完済されることになるので、家族はとても安心できます。

代位弁済後6ヶ月以内に手続きする必要がある

住宅ローン特則による住宅ローンの巻き戻しを利用する場合、1つ注意点があります。それは、住宅ローンの巻き戻しには「期限」があるということです。具体的には、住宅ローンの巻き戻しが認められるのは、代位弁済後「6ヶ月間」だけです。

よって、住宅ローンを滞納して保証会社が代位弁済してしまった場合には、その後6ヶ月以内に住宅ローン特則つきの個人再生を申し立てなければなりません。もしこの期限を過ぎてしまうと、住宅ローン特則を利用してももはや住宅を守る手段はなくなってしまうので、注意が必要です。

競売が開始されていても住宅ローン特則を利用できる

個人再生の住宅ローン特則は、住宅ローンを滞納していて住宅ローン債権者が競売を申し立てた後でも利用する事ができます。以下、その方法を解説します。

競売中止命令申立が可能

住宅ローンを3ヶ月や6ヶ月など長期滞納すると、保証会社が代位弁済しますが、同時に住宅ローン債権者や保証会社は住宅について「競売」を申し立ててきます。

競売手続きが進むと、落札人が現れて、自宅はその新たな所有者のものになってしまいます。そうなっては、いくら住宅ローン特則を利用して自宅を守ろうとしても、もはや不可能になってしまいます。

そこで、個人再生の住宅ローン特則を利用する場合には、競売を中止させることができます。

具体的には、抵当権実行の中止命令(競売中止命令)を裁判所に出してもらうことができるのです。これによって、競売手続きを一時停止させることができます。

競売手続きが中止している間に個人再生の手続きをすすめて、再生計画案の内容が認可されて確定すれば、競売の効力はなくなって、住宅を守ることができるようになります。

このように、競売中止命令を利用して競売手続きを中止させることができるのは個人再生だけです。任意整理では、このようなことはできないので、競売が開始されている場合には、任意整理で自宅を守ることはほとんど不可能になってしまいます。

個人再生の開始決定後は競売申立ができない

個人再生の手続き開始決定後は、債権者は新たに強制執行(差押など)の申立ができなくなります。よって、住宅ローンの滞納があって債権者から競売申立をされそうな場合であっても、個人再生を申し立てて手続き開始決定があると、競売の申立をされる可能性がなくなります。

このことも、住宅ローン特則を利用する大きなメリットの1つです。任意整理では、このように強制執行を封じることはできません。

住宅ローン特則が利用出来る人

個人再生の住宅ローン特則を利用出来る人は、どのような人なのでしょうか?まず、十分な支払能力があることが必要です。

住宅ローン特則を利用すると、手続き後に住宅ローン全額とその他の減額された借金の両方の支払が必要なので、支払金額が高くなりがちです。よって、この支払をするに足りる十分な収入が必要になります。

また、住宅ローンを長期滞納して保証会社が代位弁済をした後6ヶ月が経過してしまうと、住宅ローン特則は利用出来なくなります。よって、住宅ローン特則を利用したい場合には、滞納期間が短い間に、早めに申し立てすることが必要です。

まとめ

今回は、個人再生の住宅ローン特則(住宅資金特別条項)について解説しました。住宅ローン特則とは、個人再生で住宅ローンの支払はそのまま継続して全額返済し、他の借金だけを減額してもらう手続きです。借金額の減額幅が大きいことが任意整理と大きく異なります。

住宅ローン特則を利用すると、保証会社が代位弁済していても住宅ローンの巻き戻しがありますし、競売手続きが開始されていても競売中止命令によって中止させることができます。

今回の記事を参考にして、個人再生の住宅ローン特則で自宅を守りながら借金問題を解決しましょう。

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