
監修者
元弁護士ライター 福谷 陽子
住宅ローンを途中で支払えなくなり、しかも売却しても足が出る場合、合法的な解決方法としては「任意売却」と「競売」の2つがあります。
任意売却と競売の大きな違いは、住宅を売却する主体は誰か、ということです。
任意売却は、不動産の所有者が債権者(金融機関)の合意を得た上で、不動産業者を通して売却しますが、競売では債権者の申し立てによって、裁判所が売却を行ないます。
その他、売却価格や売却までにかかる期間、また所有者の処遇などに違いがあり、全体的にみると任意売却のほうがメリットは大きいといえます。
任意売却と競売の違いについて、さまざまな観点から徹底比較していきます!
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任意売却とは?
住宅ローンをすでに完済している場合、もしくは物件を売却したお金で完済できる場合は、通常の売却が可能です。しかし、売却しても残債が残るような場合は、別の方法を考える必要があります。
そんな時の選択肢の一つが、「任意売却」です。
任意売却は、住宅ローンの融資を行なう金融機関との合意にもとづき、不動産を市場価格で売却することを指します。銀行と所有者が協力して行なうものです。
本来、住宅ローンを支払えなくなった場合は、債権者(金融機関)が抵当権を実行して不動産を差し押さえ、競売にかける権利があります。
しかし、下で詳しくご紹介しますが、競売は落札までに時間がかかる上、市場価格の60%~70%でしか売れないことが多いため、十分な金額を回収することができません。
そこで、債権者と債務者、さらに仲介者(不動産業者)が間に入り、競売にかけずに不動産をできるかぎり適正な価格で売却できるようにするのが任意売却です。
競売と異なり、所有者が自分の意志(任意)で売ることから、任意売却と呼ばれています。
任意売却のメリット
任意売却には、競売と比べて多くのメリットがあります。
- 競売より高い価格で売却できる
- すみやかに売却できる
- 引っ越し費用を捻出できる可能性がある
- 諸費用の負担が少ない
- プライバシーが守られる
- 場合によっては住み続けることも可能
競売より高い価格で売却できる
競売の場合、落札価格の相場は市場価格の60%~70%といわれています。
しかも、1回目の入札で落札されなかった場合、2回目、3回目と進むたびに20%~40%程度の割合で売却基準価格が下がっていくため、時間がたてばたつほど低価格でしか売れなくなります。
一方、不動産業者が仲介する任意売却では、市場価格に近い金額での売却が可能です。その結果、競売と比較すると住宅ローンの残りも少なくなり、生活も再建しやすくなります。
すみやかに売却できる
競売では、競売開始決定から落札までに最低でも半年ほどかかることが一般的です。場合によっては、さらに長い期間かかることもあります。
競売では、金融機関の申し立てを受けて裁判所が売却を行うため、執行官(地方裁判所の職員)による物件の調査や、それをもとにした物件明細書の作成など、さまざまな手続きに時間がかかってしまうことが一因です。
また、上述したように1回目の入札で落札されなければ、さらに時間がかかることになります。その間、物件の価値はどんどん下がる一方です。
一方、任意売却では不動産業者が売却を担当するため、競売と比べてスピーディに手続きが進みます。
引っ越し費用を捻出できる可能性がある
競売では、売却代金がすべて債権者への返済にあてられるのに対し、任意売却では債権者との交渉により、引っ越し費用を出してもらえる可能性があります。
これは、競売が裁判所による強制力の強い手続きであるのに対し、任意売却は債権者との話し合いによるところが大きいからです。
任意売却では引っ越し費用や新居の敷金・礼金のほか、引っ越しの時期や残った住宅ローンの返済方法についてまでも、比較的柔軟に対応してもらえます。
諸費用の負担が少ない
任意売却では、不動産業者への仲介手数料や、滞納している固定資産税・マンションの管理料なども売却代金の中から支払うことができます。
そのため、費用負担が少ない点が大きなメリットです。
プライバシーが守られる
不動産が競売にかけられると、「競売物件」として新聞やインターネットに情報が掲載されますし、関心を持った不動産業者が様子を見に来ることなどがあるため、知人や近所の方に事情を知られてしまうリスクがあります。
しかし任意売却では、普通の中古物件と同じように販売されますので、周りからは「家を売って引っ越すんだな」としか思われません。
場合によっては住み続けることも可能
任意売却では、身内や知人、もしくは投資家の方に物件を買い取ってもらうことができれば、そのまま家に住み続けられる可能性もあります。
たとえば、資金に余裕のある方にお願いして買い取ってもらい、その後は家賃として月々お金を支払っていく、ということもできるのです。
任意売却のデメリット
一方、任意売却にもいくつかのデメリットがあります。
- 利害関係者との交渉に手間がかかる
- かならず任意売却できるとは限らない
- 内覧に立ち会う必要がある
利害関係者との交渉に手間がかかる
任意売却を行なうためには、債権者はもちろん、保証協会や保証会社などの保証人がいる場合はそちらの了承を得る必要もあるため、手続きや交渉にやや手間と時間がかかってしまいます。
ただし、これらの交渉は不動産業者が代行してくれることが一般的です。
かならず任意売却できるとは限らない
債権者や保証人の了承が得られない場合や、税金・管理費などを多額に滞納してしまっている場合、すでに競売の手続きが進んでいる場合などは、任意売却が難しくなります。
たとえば固定資産税を滞納しすぎている場合、すでに市町村が不動産を差し押さえてしまっている可能性があります。こうなると厄介ですので、なるべく早めに不動産業者に相談することが大切です。
内覧に立ち会う必要がある
競売と異なり、任意売却では購入希望者に建物の中を見せる必要がありますので、その都度立ち合いが必要です。
不動産競売とは?
競売とは、住宅ローンや不動産担保ローンなどの支払いが困難になった場合、債権者(金融機関など)が不動産を差し押さえ、裁判所に申し立てを行なって売却する手続きのことです。
任意売却が、債権者と債務者、不動産業者の3者の協力によって行なわれるのに対し、競売では債権者の申し立てを受けて、裁判所が物件を売却します。
競売のデメリット
競売は、任意売却と比べるとデメリットの多い売却方法です。おもに以下の3点が問題となります。
- 市場価格より低く売却されてしまう
- 市場価格より低く売却されてしまう
- 住宅ローンの残債がたくさん残る
- 住宅ローンの残債がたくさん残る
- プライバシーが守られにくい
市場価格より低く売却されてしまう
競売物件は、市場価格と比べて低く売却されることが一般的です。また前述したとおり、1回の入札で落札されなかった場合、2回目、3回目と進むにつれてさらに価格は下がっていきます。
競売物件がなぜ安いのかというと、通常の中古物件に比べてリスクが大きいことが主な理由です。
たとえば、競売物件は建物の中を見学できない場合が多く、執行官が撮影した写真のみで判断する必要があります。しかも現状渡しが原則ですので、ふたを開けてみれば予想外の修繕費がかかる可能性もあるのです。
また、落札後も前所有者が家に居座り続けることもあり、その場合は明け渡しの交渉を落札者が行なう必要があります。裁判所に「引き渡し命令」の申し立てを行なうことで、強制的に前所有者を立ち退かせることも可能ですが、相応の費用と労力がかかります。
こういったリスクがあることから、競売物件は市場価格より安く売られてしまうのです。
住宅ローンの残債がたくさん残る
市場価格より安く売却されるということは、当然ながら債権者に渡る金額も少なく、住宅ローンの残債が多く残ることになります。
つまり、競売で家を売っても引き続き借金地獄におちいる可能性があるということです。
競売後の残債を支払うことができないために、自己破産の選択をする人も少なくありません。
プライバシーが守られにくい
物件が競売にかけられると、その情報は裁判所で閲覧できるのみならず、新聞や裁判所のホームページなどでも見ることができます。
また、競売にかかった物件を見るために不動産業者が周りをウロウロしたり、訪問してきたりすることもあります。
上記のほかにも、「売却までの期間がかかる」「落札者が引っ越し代を出してくれるとは限らない」などのデメリットもあります。
競売のメリット
一方、競売にメリットがあるとすれば以下のような点が挙げられます。
- 債務者の手間がかからない
- 落札されるまで住み続けることができる
債務者の手間がかからない
債権者が申し立てれば、競売の手続きは自動的に進んでいきますので、立ち退きを迫られるまで債務者は特に動く必要はありません。
落札されるまで住み続けることができる
競売は、任意売却に比べると売却までにかかる期間が長いため、競売にかけられることが決定してもしばらくの間は住み続けることができます。
ただし、その間も「遅延損害金(延滞している元金に対して付く損害金)」が加算され続ける点に注意が必要です。
任意売却と競売の比較表
任意売却と競売の違いをまとめてみましょう。
比較項目 | 任意売却 | 競売 |
---|---|---|
住宅ローンの残債 |
| 市場価格より低く売却されるため、残債が多く残る |
売却までの期間 | スピーディ | 最低半年~ |
引っ越し費用 | 債権者との話し合いの上、捻出してもらえる可能性がある | 原則自己負担 |
滞納した管理費や固定資産税などの諸費用 | 売却代金から支払うことができる | 原則自己負担 |
立ち退き |
| 落札者や執行官によって強制退去を求められる |
プライバシー | 任意売却であることは周りにわからない | 競売の情報は、新聞やホームページなどで閲覧できる |
債務者の手間 | 不動産業者への相談や、内覧の立ち合いなどが必要 | 特になし |
このようにみると、競売よりも任意売却のほうが、債務者にとってはメリットが大きいことがわかります。特に、高く売れると、債権者にとってもありがたいものです。
そこで、競売にかけられてしまう前に任意売却ができないかどうかを、不動産業者に相談してみることをおすすめします。
多くの不動産業者が任意売却の相談を受け付けていますが、特に任意売却の実績が豊富で、債務者の生活再建も含めたトータルサポートをしてくれる業者を選ぶようにしましょう。
もし不動産業者の選び方がわからない場合は、専門の相談員がアドバイスをしてくれるサービスを利用するのも一つの方法です。
たとえば「一般社団法人 全日本任意売却支援協会」では、無料で任意売却の相談に応じています。
また、住宅ローン以外にも借金があって整理したい場合や、自己破産を考えているような場合には、弁護士に相談するのがおすすめです。
なるべくいい条件で解決できるよう、住宅ローンの支払いで困った場合はぜひ専門家に相談してみてください。