
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、未曾有の大震災と言われている中、2016年4月に最大震度7の熊本地震が発生しました。
この地震でたくさんの貴重な財産を失われた方も多いと思われますが、これは決して他人事ではありません。それは、いつ自分自身に同じことが起こるかわかりませんし、起こり得る可能性があると考えられるからです。
とはいえ、実際に被害に遭ってしまった場合、私たちはどのような行動を起こすのがよいのでしょう。きっと一歩前へ進む行動に移すことができない心境になっていてもおかしくないかもしれません。
そこで、本記事では、このような大きな震災で被害を受けてしまった方を対象にした「被災地ローン減免制度」について詳しく解説すると共にこの制度を有効活用することで新たな生活再建をするための方法をご紹介していきます。
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目次
被災地ローン減免制度とは
被災地ローン減免制度とは、大規模地震などが発生した被災地の被災者で「住宅ローン」や「事業性ローン」などを抱えた個人や個人事業主などを対象に「債務の全部」または「債務の一部」を免除する制度のことをいいます。
被災地ローン減免制度ができた背景とは
2011年3月11日に東日本大震災が発生したことによって、岩手県、宮城県、福島県などの地域は、これまでに無いほどの莫大な損害を受けました。
この地震の影響によって、住宅ローンを借りている個人や事業資金を借りている個人事業主などが再スタートをするために再びローンを組むことができないといった問題、いわゆる「二重ローン」になるという問題が発生しました。
これによって、再スタートをしていくための被災者の負担が増加し、生活再建をするのが難しくなるといった課題が浮き彫りになりました。
そこで、金融機関などが、個人や個人事業主などの債務者に対して、破産手続きなどの法的な手段ではなく、任意整理のような債務免除を行うことで、これら債務者の自助努力による生活再建を支援するといった目的から被災地ローン減免制度が創設されました。
被災地ローン減免制度の4つのメリット
被災地ローン減免制度は、金融機関などの債権者から任意整理のような債務免除を受けることになるため、手続きを実行した後はさまざまな弊害が生じると思われている方も多いのではないでしょうか?
しかしながら、一般の債務整理や任意整理と異なり被災地ローン減免制度には、以下に紹介する4つのメリットがあります。
信用情報機関に登録されない
多くのみなさんは「ブラックリスト」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。一般に債務整理や任意整理を行った場合、5年から10年程度の間、信用情報機関にその履歴が残ることになります。
これを俗に「ブラックリストに載る」といいますが、この履歴が信用情報機関に残ることによって、原則、お金を借りることがまずもって不可能になってしまいます。
被災地ローン減免制度は、金融機関などから借りていた住宅ローンや事業性ローンについての債務免除を受けることになりますので、本来ならばブラックリストに載ってもおかしくはないのですが、債務者の自助努力による生活再建を支援するといった制度本来の目的があるため、信用情報機関には登録されないことになっています。
したがいまして、住宅ローンや事業性ローンの返済が辛く、苦しい時は、ただちに日本弁護士連合会に相談したり、個人版私的整理ガイドライン運営委員会へ問い合わせてみることを強くおすすめします。
原則として保証人に請求されない
住宅ローンや事業性ローンを抱えた個人や個人事業主が、被災地ローン減免制度を適用することによって、いわゆる連帯保証人が代わりに債務を弁済することは、制度の目的と明らかにかけ離れています。
そこで、被災地ローン減免制度では、本制度を適用したとしても、原則として連帯保証人に債務の弁済を請求しないこととしています。
最大で500万円を残した状態で債務の減免が可能
大災害から被災者が自助努力によって生活再建をするためには、抱えている債務を免除されるだけではなく、ある程度の資金を保有していることが必要不可欠です。
そのため、被災地ローン減免制度では、最大で500万円を手元に残した状態で債務の減免をすることを認めています。個人事業主などの場合は、事業資金が生活再建のために必要になるものだからこそ多めの保有金額を認めているのだと考えられます。
国の補助で成り立っているため弁護士費用がかからない
被災地ローン減免制度は、国の補助で成り立っている制度であるため、制度を適用するためにかかる弁護士などの費用について、債務者が負担する必要はありません。
日本国憲法の第25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定められており、大災害からの生活再建はこの規定を守ることにもつながると考えられます。
被災地ローン減免制度が対象となる7つの条件
被災地ローン減免制度のメリットは、先に解説したとおりですが、この制度を適用できるということは、早い段階で生活再建を実現できることにつながっていきます。ただし、同制度は、誰でも適用されるものではなく、以下に解説する7つの条件をすべて満たしていなければなりません。
既存債務を弁済できない、弁済できないことが確実と見込まれること
大災害が発生したことによって「住居」といった生活基盤のための住宅ローンや「事業所」「事業設備」「取引先の事業基盤」における事業性ローンが弁済できないことや、仮に今は弁済できていたとしても、この先、弁済するのが明らかに難しくなると考えられる状態であることが必要です。
「既存債務」とありますように、大災害前に組んでいたローンであることが当然に求められます。
うそや偽りがなく、正しく現在の状態を申し出していること
被災地ローン減免制度の適用を受けるためには「債務整理の申出書」「財産目録」「債権者一覧表」といった書類が必要になります。これらの書類の記載にうそや偽りがないかを確認し、問題がなければこの条件は満たされていることになります。
期限の利益喪失事由に該当する行為がないこと
期限の利益喪失事由とは、主に個人事業を営んでいる方が対象になると考えられますが、被災地ローン減免制度を適用する前に「倒産手続」を開始していたり、財産について第三者からの「差し押さえ」「仮処分」といった信用に問題がなかったことが求められます。
こちらの条件も大災害前に、前述したような状態になっていないことが必要です。
対象債権者にとっても経済的な合理性が期待されること
ここでいう「対象債権者」とは、住宅ローンや事業性ローンを融資している金融機関などを指します。
被災地ローン減免制度は、債務者の生活再建が大きな目的ではありますが、お金を貸している金融機関などにとってみますと、すべての債務者からの申し出に対応するのは、事実上困難であると考えられます。
そのため、被災地ローン減免制度を適用したとしても、減免した後において金融機関側も経済的に利益が受けられるような状況でなければなりません。
具体的には、貸したお金がしっかりと返済されるような状況であることが求められ、これによって、債権者と債務者が双方で「痛み分け」するようなイメージになります。
個人事業主の場合は事業再建の可能性があること
被災地ローン減免制度の適用を検討している個人事業主の場合は、再建する事業に対して「収益性」や「将来性」のあることが求められています。
ここでいう「収益性」や「将来性」には、詳細な条件が定められているのではなく、一般に公序良俗に反しない事業であればまずもって問題がありません。先に解説した「4-2. うそや偽りがなく、正しく現在の状態を申し出していること」の条件を満たしていることで、こちらの条件も満たすものとされているようです。
反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
被災地ローン減免制度は、反社会的勢力、いわゆる「暴力団」や「やくざ」と呼ばれる者に対して制度を適用することはありません。一般に、被災地ローン減免制度の適用を受けるためには、申出書や必要書類の記載提出が求められますが、それらの内容と金融機関などの債権者が持っている情報をもとに、反社会的勢力ではなく、そのおそれもないことを総合的に判断し決定することになっています。
破産法第252条1項に規定される免責不許可事由がないこと
免責不許可事由とは、破産の申し立てをしても免責されないことを意味します。たとえば、ギャンブルや浪費、株式投資といった自分の「欲望」を満たすような借金の原因である場合は、その借金が原因の破産は認めないといったことです。
貸したお金を好き勝手に使われたあげく、返せないからごめんなさいでは貸したお金をまける(減免する)気持ちになれないのは誰でも当然なことだと思います。
被災地ローン減免制度の対象になる借入とは
被災地ローン減免制度の対象となる借入は、先に解説した「住宅ローン」や「事業性ローン」のほか「自動車ローン」や「住宅のリフォームローン」なども含まれます。
カードローンや消費者金融からの借入のみの場合、被災地ローン減免制度の趣旨に反しているように考えられますが、大災害の影響によって既存債務を弁済できないといった状況は同じであるといった観点から、場合によって適用が可能だと考えられています。
こちらは、あくまでも確実な減免対象ではない点に注意が必要でしょう。
被災地ローン減免制度の申し込みに必要な書類
被災地ローン減免制度の申し込みに必要な書類は、以下のとおりです。
- 申出書(申し込み書)
- 住民票の写し(本籍地が記載されている必要があります)
- 陳述書(現在の状況や減免申請の理由などを記載します)
- 収入がわかるもの(給与明細書、源泉徴収票、課税証明書の写しなど)
- 財産目録(預貯金の通帳、証書の写しなど)
- 債権者一覧表
- 家計収支表(直近2ヶ月分)
- 事業収支実績表(事業者の場合、直近6ヶ月)
- り災証明書、被災証明書など(大災害を受けたことを証明する書類)
上記書類が必要になりますが、あくまでも問い合わせ先の担当者や専門家の指示にしたがって対応するようにしてください。
まとめ
本記事では、「被災地ローン減免制度」を有効活用して生活再建する方法を解説しました。
この制度は、東日本大震災後に創設された被災者生活再建制度にあたりますが、東日本大震災に限らず、茨城県常総市での堤防決壊における水害や平成28年熊本地震などの大災害においても準用されています。
しかしながら、実際のところ多くの被災者が同制度を知らないがゆえに使われていないといった残念な現状もあります。国や地方が積極的に発信することで制度が浸透するのは間違いないのですが、同制度が被災者に知られていないということは、ここには、何かがあると感じざるを得ません。
日本弁護士連合会では、被災地ローン減免制度について詳しく解説しており、さらに弁護士によるアドバイスも受けられます。
大災害に遭ってしまったことによって、生活再建ができないほどの状態に陥ってしまったときは、新たにお金を借りたり、既存の借入先である金融機関へ相談する前に必ず弁護士や日本弁護士連合会へ相談することを強くおすすめします。
極端な話のようで極端ではないのですが、相談する順番を弁護士に最初にするか金融機関を先にするかで、将来大きな影響を及ぼすことが少なからずあります。被災者のみなさんには、1人でも多くの人にこの制度を活用していただきたいと思っております。
また、本記事が読者のみなさまの重要な予備知識としてお役立ていただければ幸いです。