
相続するとき、亡くなった人(被相続人)が借金を残していても、相続財産の方が多ければ心配ないと思っている人もいるようです。
しかし、相続の際に、財産と借金が自動的に相殺されるわけではありません。
ここでは、相続で財産と借金の両方を引き継ぐ場合について説明します。
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目次
相続発生時には財産や借金はどのような形で承継する?
相続では財産と借金が勝手に相殺されるわけではない
相続が発生すると、被相続人が持っていた財産を、一定範囲の親族(相続人)が承継します。この場合の財産には、プラスの財産とマイナスの財産が含まれます。
プラスの財産とは、不動産、現金、預貯金などのことで、マイナスの財産とは借金などの債務のことです。
相続が発生すると、財産と借金の両方とも承継することになります。しかし、財産と借金が相殺された状態で承継するわけではありません。
財産は財産、借金は借金でそのまま承継することになりますから、借金を引き継いだ相続人が借金を返済する必要があります。
借金は相続人が相続分に応じて承継する
相続人が複数いる場合、被相続人が残した財産は、遺産分割協議により分け方を決めることになります。
しかし、借金については、相続人全員が相続分(民法で定められている相続の割合)に応じて承継することになります。
なお、遺産分割協議を行う際に、借金についても、一部の相続人のみが承継する形の取り決めをすることもできます。
ただし、相続人間での借金の負担の取り決めを債権者に対して主張することはできません。債権者は原則どおり、各相続人に相続分に応じた借金の支払いを請求することができます。
複数の相続人で借金を相続する場合の例
たとえば、被相続人が借金1000万円を残して亡くなった場合、相続人が子2人(A、B)であるとすれば、AもBも債権者に対して500万円の支払い義務を負います。
遺産分割協議で「1000万円の借金はすべてAが負担する」と取り決めした場合でも、Bは債権者から借金の支払いを請求されたら、500万円を債権者に対して支払わなければなりません。
なお、この場合、Bは債権者に支払った500万円について、遺産分割協議で決定した内容にもとづき、Aに請求できることになります。
プラスの財産とマイナスの財産が相殺される限定承認とは?
借金を引き継ぎたくない場合の選択肢
上述のとおり、相続財産の中に借金があれば、相続人が相続分に応じて借金を負担することになってしまいます。
借金を承継しないために、相続放棄をする方法もありますが、相続放棄をすればプラスの財産も承継できなくなってしまいます。
トータルではマイナスでも、プラスの財産の中に、自宅不動産などどうしても承継したいものがある場合もあります。このような場合に、限定承認という方法が用いられることがあります。
限定承認とは
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を承継するという相続方法です。
限定承認では、手続きの中で財産と借金の相殺が行われ、もしマイナスになればマイナス分を引き継ぐ必要はなく、プラスが出ればプラスの分だけを相続人で分けることが可能になります。
相続時には、原則的な相続方法である単純承認以外に、相続放棄または限定承認も選べます。
なお、相続放棄または限定承認を行う場合には、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所で手続きする必要があり、その期間を経過してしまうと自動的に単純承認したことになってしまいます。
限定承認の手続きの流れ
限定承認は、相続人全員で共同して家庭裁判所に限定承認申述書を提出して行います。限定承認では、申述が受理されると、相続財産の清算手続きを行うことになります。
限定承認者が1人の場合にはその人が、共同相続人がいるときにはその中から選任された相続財産管理人が手続きを進行します。
清算手続きでは、相続財産を現金化して相続債権者に返済しますが、相続財産で全額払いきれない場合には、それぞれの債権者の債権額に応じた割合で返済します。
もし清算してもなおプラスの財産がある場合には、遺産分割を行うことになります。
限定承認にはデメリットもある
限定承認というのは、プラスの財産とマイナスの財産の相殺が行われ、プラスが出たときだけ財産を承継できますから、一見便利な方法です。しかし、限定承認には次のようなデメリットがあります。
まず、限定承認は、相続人全員が共同して行う必要があります。相続人同士が疎遠だったり、意見が合わなかったりすれば、手続きが困難です。
また、限定承認をすれば、上述のとおり、法律に則った清算手続きを行わなければなりません。こうした手続きは複雑で手間がかかりますから、できれば避けたいと思う人が多いはずです。
さらに、限定承認した場合、税法上、被相続人が財産を時価で相続人に譲渡したものとみなされ、譲渡所得税の課税対象になってしまいます。
譲渡所得税は譲渡益に対して課税されるものですから、相続財産の中に不動産や株券など含み益のあるものがあれば、被相続人に対して譲渡所得税がかかってしまう可能性があります。
このようなデメリットがあるため、限定承認というのはあまり利用されていないのが実情です。
相続税の計算はどうなる?
相続には基礎控除額がある
相続の際、相続財産の額によっては、相続税が課税されることがあります。相続税は相続財産のすべてに課税されるのではなく、基礎控除額と呼ばれる一定額までは相続税がかかりません。
基礎控除額は、次のような計算式で計算します。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
債務控除により相殺ができる
財産と借金の両方を相続した場合には、相続税の計算がどうなるのかが気になると思います。相続税の計算の過程においては、債務控除と言って、プラスの財産からマイナスの財産を差し引くことができます。
債務控除の対象となる債務には、被相続人が亡くなった時点で負担していた債務のほか、葬式費用も含まれます。
相続財産からこれらの債務を差し引いた額が、基礎控除額を超えていれば、相続税がかかることになります。
まとめ
財産と借金の両方を相続することになった場合、借金については相続人が相続分に応じて負担するのが原則です。
なお、相続財産と借金とを相殺し、プラスの部分だけ引き継ぎたい場合には、限定承認という方法もあります。
相続放棄や限定承認は、相続開始を知ったときから3か月以内に手続きする必要があります。借金を相続することになった場合には、速やかに専門家に相談し、対処法を考えましょう。